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社説・コラム

天風録 「シュモ―さん」

 被爆から7年の広島で米国人の大工さんが額に汗している? いや、写真の彼はフロイド・シュモー。モノクロームの世界に日焼けした柔和な表情が溶け込む。その3年前から広島に入り、被爆者の住宅「ヒロシマの家」を建ててきた▲全米を巡って集めた資金を投じ、手掛けたのは21棟。若者にも協力を求め、ともに材を担いだ。家は「私たちの心の愛を、目に見える形にするもの」。祖国の非道に対する「慚愧(ざんき)と後悔」の念を胸に秘めていた▲街が復興を遂げるにつれ、朽ちゆくヒロシマの家は姿を消す。最後に残った1棟は長く生き続けるだろう。江波地区の集会所が、原爆資料館に付属する「シュモーハウス」に一新された▲館内では焦土に支援の手を差し伸べた海外の人たちを紹介する。シュモーさんが使い込んだ金づちや、あの笑顔の写真も。ヒロシマがどれだけ世界の良心に支えられてきたか―。今の私たちは忘れてしまってはいないか▲道路建設に伴い、今は珍しい「曳(ひ)き家」で移転したシュモーハウス。うまずたゆまずの精神だったシュモーさんに似合う。復興のつち音は聞こえないけど、不戦への願いに耳傾けよう。それが恩返しになるはず。

(2012年11月2日朝刊掲載)

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