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社説・コラム

社説 活断層と原子力規制委 リスク評価は最大限に

 原発の安全性をチェックする「番人」として、力量と本気度が試されそうだ。

 原子力規制委員会は、敷地内に活断層が隠れている疑いなどが浮上した原発6カ所の現地調査に着手した。その第1弾が、国内で唯一稼働している関西電力大飯原発(福井県)である。

 1、2号機と、3、4号機の間をほぼ南北に走る「破砕帯」という小さな断層が調査の対象だ。近くの活断層と連動して地盤をずらす危険性が、再稼働させる前から指摘されていた。

 規制委は、警告を発してきた専門家も調査団のメンバーに迎え入れた。客観的で正確な調査を目指す意気込みが伝わる。その姿勢は評価したい。

 調査ではボーリングで採取した試料を調べた。4日に開く会合で結果を検討するが、早速、活断層ではないかと疑う指摘が出た。判断が注目される。

 一方、関西電力は先手を打って独自調査に基づく中間報告を規制委に提出した。「活断層があると示唆する結果は得られていない」。規制委の動きをけん制するかのようだ。

 田中俊一委員長は、今回の調査について「(疑いが)黒や濃いグレーの時には(運転を)止めてもらう」と明言している。その方針を貫いてもらいたい。調査結果も国民にも分かりやすく開示すべきである。

 ただ、大飯原発は暫定的な安全基準で再稼働した経緯がある。今回の調査がたとえ「白」であっても、このまま運転を続けていいのだろうか。

 なぜなら規制委が先月末、原子力災害対策の新たな指針を打ち出したからだ。福島第1原発事故を教訓に、災害対策重点区域を30キロ圏内に拡大。事故が起きた際、住民の被曝(ひばく)を最小限に食い止める対応策を自治体に義務付けた。

 このような備えが整って初めて、再稼働の議論ができるのだろう。大飯がこの手順を踏まずに稼働を続ければ、規制委の指針そのものに矛盾が生じよう。

 これまで国や電力会社は、活断層や破砕帯のリスクを低く見積もってきたきらいがある。

 いまの原発耐震指針では、設計上考慮する活断層は「13万~12万年前以降に活動した断層」としている。主に想定してきたのは長さ数十キロに及び、自ら地震を起こすような巨大な活断層である。小さな破砕帯は重視してこなかった。

 ところが、国際原子力機関(IAEA)の指針では、「地震を起こす断層につられて動き、地盤をずらす断層も注意が必要」などと、重視している。今回、大飯原発の調査で破砕帯に目が向けられたのは、国際的な常識でもあるのだろう。

 福島の事故を体験した今、リスクは最大限に見積もることこそ安全への新たな常識である。

 規制委の現地調査を、6カ所だけで終わらせるべきではない。約2千の活断層がある国内に54基もの原発を有しているのだ。全原発を対象に広げ周辺の点検を徹底する必要がある。

 島根原発も例外ではない。沖合には三つの活断層がある。加えて原発近くの宍道断層のリスクを指摘する声もある。

 電力会社が主体となる調査だけでは十分とはいえない。第三者機関なども活用しながら、規制委には徹底した監視機能を求めたい。

(2012年11月3日朝刊掲載)

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