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社説・コラム

社説 繰り返される米兵事件 地位協定 今こそ改定を

 一体、いつまで繰り返されるのだろう。沖縄でまた、米兵による暴力事件が起きた。

 おととい未明、米軍嘉手納基地の米兵が住居に侵入し、中学生を殴ってけがを負わせた。

 先月も集団強姦(ごうかん)致傷の疑いで米兵2人が逮捕、送検されたばかり。これを受け、在日米軍は夜間外出禁止令を出していた。

 相次ぐ事件に県民の我慢と怒りは頂点に達している。だが政府や米側の受け止めは深刻さに欠けているとしか見えない。

 野田佳彦首相は「極めて遺憾」と型通りのコメントをし、抗議を受けたルース駐日米大使は陳謝した。つい先日も目にした光景ではないか。

 基地がある限り、住民に安心はないのだろうか。

 事件の前、米兵は酒に酔い、居酒屋に現れた。店にいた人から外出禁止の時間帯だと指摘され、逆上したという。

 外出禁止令が徹底していないのは明らかである。米軍は綱紀粛正、再発防止を強調するが、兵士の意識が変わらなければ、むなしく響くばかりだ。

 事態の根底に、日米地位協定があるのではないか。米軍人は公務外に罪を犯しても基地内に逃げ込めば原則、起訴まで日本側に身柄を引き渡されない。

 「協定が諸悪の根源」「沖縄は米兵にとって治外法権的空間になっている」。沖縄県の仲井真弘多知事が憤る。

 中学生を暴行した後、米兵は転落して負傷し、米軍基地内の病院に運ばれた。沖縄県警が捜査しているが、協定が壁となって身柄は確保できていない。

 藤村修官房長官は「起訴前の身柄引き渡しを要請する必要はないと考える」と語った。

 凶悪犯罪ではないことや、米軍が捜査に協力的というのが理由のようだが、住民感情と懸け離れた甘い認識といえよう。

 先月の事件の際も、仲井真知事は日米地位協定の抜本改定を強く求めた。だが官房長官は、改定ではなく運用面での見直しで、との考えを示している。

 協定の見直しに動こうとしない消極性に、事件が起きても受け身のまま幕引きを図ろうとする弱腰ぶり。こうした政府の姿勢が米側に甘く見られてきた要因にも思えてくる。

 米軍に特権的な身分を保障する地位協定。ドイツや韓国では改定により、基地内の環境汚染などについて立ち入り調査の権限が認められている。

 一方、日本ではこの半世紀余り、一度も改定されていない。「不平等」との批判に応え、日本側から声を上げるべきだ。

 米軍普天間飛行場に強行配備された垂直離着陸輸送機MV22オスプレイにも、県民は不信を募らせている。ヘリモードのまま市街地上空を飛ぶなど運用ルール違反が相次ぐ。騒音防止協定で制限する午後10時以降の飛行も確認されたからだ。

 おとといの全国知事会議で、首相はオスプレイ訓練の本土分散に協力を求めた。山口や静岡県の知事が「不明な事柄が多すぎる」「いきなりで一方的な通告に驚愕(きょうがく)する」と反発するのも無理はない。

 自国の女性や子どもが傷つけられ、危険にさらされている。由々しき事態なのに、政府はどこを向いているのか。腹を決めて米側と渡り合うときだ。

 実効ある対策を引き出し、国民を守らなければならない。

(2012年11月4日朝刊掲載)

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