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社説・コラム

天風録 「二度泣き」

 転勤族なら「二度泣き」の話は聞き覚えがあるかもしれない。右も左も分からない土地への辞令についこぼれる落胆の涙。赴いてみればいつしか山海の幸や人情にほだされ、今度は去り難くなって頬をぬらすという▲思えば「地方に出る」「本社に帰る」といった物言いには、どこか腰の据わらない雰囲気が漂う。そう省みての心機一転だろうか。原発事故を引き起こした東京電力が「福島復興本社」なるものをかの地に置く構えらしい▲間、髪を入れぬ事故賠償には被災地目線が欠かせない。ところが押し問答のたびに東電社員から返ってくる口上は「東京の本店でないと一存では…」。地元紙の投稿欄には「福島に住んでから物を言え」といった声が何度となくぶり返していた▲支援ボランティアにも4万人近い社員を一人残らず送り込むとか。現地は半信半疑、まだ様子見のようだ。併せて「東京絆本店」とか何とか名乗り直さなくていいのか。視座を変え、身と心を寄せれば見えてこよう▲まずは仮設暮らしで途方に暮れる胸の内をくみ取らねばなるまい。いつか地域に根付き、うれし涙に浸る。そんな「三度泣き」が東電の語り草となる日が待ち遠しい。

(2012年11月5日朝刊掲載)

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