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社説・コラム

社説 オバマ氏再選 「核なき世界」へ道筋を

 米大統領選は現職のオバマ大統領(民主党)が、共和党のロムニー候補を破って再選された。「チェンジ(変革)」を「フォワード(前進)」と言い換えたが、4年前のような高揚感は当の米国民はもちろん、私たち日本人も感じない。

 オバマ氏2期目の最重要課題はやはり経済再生だろう。大型景気対策や新エネルギー政策などに取り組んだが、成長率の低迷と失業率の高止まりは食い止められず、財政難から地方の医療や教育などは疲弊している。

 この「経済失政」がロムニー氏の一時追い風になった。オバマ氏就任以来の課題である「金融危機からの再生」はこれから正念場を迎えるといえよう。

 政府の役割を重視するオバマ氏に対し、ロムニー氏はその役割を制限する「小さな政府」を主張して対立が鮮明になった。とりわけ国民皆保険を目指して成立させた医療保険改革法が争点になり、富裕層減税を続けるか、雇用をどう創出するか、主張をぶつけ合った。

 オバマ氏は「一つのアメリカ」を掲げ、米社会が抱えるさまざまな亀裂の修復を誓って政権の座に就いたはずだ。二大政党が対立しつつ妥協点を探ってきた米国政治の「伝統」を思うと、両極化は世界経済にとっても好ましくない。

 当面の緊急の課題は「財政の崖」と呼ばれる危機の回避だ。年明け早々、大型減税の失効と自動的な歳出削減が重なれば、欧州債務危機や中国経済の失速懸念と並ぶ世界経済の3大リスクの一つが立ち現れる。

 初当選の時は議会の上下院とも民主党が多数派を占めていたが、その後の中間選挙で「ねじれ」が起きた。オバマ氏は再選の勢いをかって、反対勢力の協力を取り付けるしかない。

 外交・安全保障政策では、イラクやアフガニスタンからの軍事撤退を進めた点は評価できるものの、中東に新たな混迷ももたらした。漠とした先行き不安を拭えない。

 長引くシリアの内戦への関与には消極的だ。もはや人道の危機であり、看過できまい。イスラエルによる攻撃が懸念されるイランの核開発問題も、平和的に解決するよう望みたい。この地で米軍が軍事出動するような事態は避けたいところだ。

 「核なき世界をめざす」のプラハ演説は被爆地にも勇気を与えた。実現しないままだが、広島訪問を求める声もあった。ノーベル平和賞は非核への流れを後押ししようという、国際世論の表れでもあろう。

 世界の空気は非核に向かう方向に変わったが、選挙戦でその議論が聞けなかったのはなぜだろうか。この4年間でも核兵器の性能を調べる新型実験が繰り返された。自己矛盾であることを自覚すべきだ。

 オバマ政権は軍事力の比重をアジア・太平洋に移し始めている。中国の海軍軍事力を抑止する目的だが、いたずらに摩擦を起こすべきではない。中国の果たす役割を認めたうえで、外交による信頼醸成への道を選べないか。

 沖縄では普天間飛行場の移設が積み残しのままである。日米で米軍基地のありようを包括的に議論し、地元負担の重圧を早く取り除くべきだ。日本政府の腹も定まらなければ前には進まないことは、言うまでもない。

(2012年11月8日朝刊掲載)

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