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社説・コラム

『潮流』 たこ揚げは違法?

■論説主幹 江種則貴

 この時季の遊びといえば、たこ揚げだった。住宅や大木をかわし、どう大空の風に乗せるか。仲間と腕を競った子どもの頃が懐かしい。たき火と違って、大人にとがめられることもなかった。

 それが米軍基地周辺では今後、警察の取り締まり対象になりそうだ。

 政府がきのう、自民党参院議員の質問主意書に対する答弁書を閣議で決めた。垂直離着陸輸送機オスプレイが配備された米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)。周辺で風船やたこを揚げる住民の抵抗運動は、航空危険行為処罰法に違反する可能性がある、との内容だ。

 航空機を墜落させて大惨事になれば死刑にも。処罰法はハイジャック対策として40年近く前に生まれた。

 それを住民運動に適用することには違和感が残る。一方でオスプレイをはじめ米軍機は、日本の航空法の対象からは除外されているからだ。すなわち市街地上空は高度300メートル、それ以外なら150メートル以下で飛行しても法律違反にはならない。

 ならば中国山地で150メートル以下の糸を使ってたこを揚げ、低空飛行の米軍機に絡まったとする。たこを操った住民は逮捕され、米軍機を操縦したパイロットは違法性を問われない。処罰法を拡大解釈していけば、そうなりはしないか。

 法適用のひずみを別の法で取り繕うのは、筋違いに思えてくる。

 オスプレイは沖縄の市街地上空をヘリモードで飛ぶなどの目撃談が相次ぐ。事前に日米間で取り決めたルールが守られていないが、政府が米軍に強く申し入れる気配は今のところ見えない。

 国民の命よりも米軍機の安全の方が大切なのかと、住民が不安を募らせるのも当然だろう。

 たこ揚げが自由にできる空を子どもに返す。無理ならせめて、どんな飛行機であれ最低限のルールを等しく適用する。約束違反はただしていく。政府の行うべき順番は逆ではないか。

(2012年11月10日朝刊掲載)

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