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社説・コラム

政治の力が問われる今 五百旗頭真さんに聞く 百年の計に立つ視点を

 大震災と原発事故による未曽有の複合災害からの復興や、領土をめぐり対立する近隣諸国との関係改善…。政治の力が問われている。政治・外交史の泰斗(たいと)で、政府の復興推進委員会を率いる五百旗頭真さん(68)は「百年の計を考えることが必要です」と唱える。広島大が今月開いた校友の集い「ホームカミングデー」で講演に訪れた折、有権者にも求められている政治への視点を尋ねた。(編集委員・西本雅実)

 ―昨年は政府の復興構想会議議長、ことし2月からは事業の進み具合を被災地の知事らと検証する推進委の委員長です。
 構想会議は、将来の津波に備えた高台移転と多重防御という選択肢を示し、生産業の「特区」を認め、地熱や太陽光など再生可能なエネルギーを新しいまちのインフラにしようと提言した。増税するかどうかで激論となったが、被災を分かち合い、支えることが東北だけでなく日本をも再生させる。そう考えて復興税を伴う財源措置を打ち出したわけです。

 私も体験した阪神・淡路大震災(1995年)の時は、復旧に国の予算は出すが、よりよいものにする創造的復興には駄目だとなった。神戸港のコンテナ埠頭(ふとう)は復旧されたが、それ以上の機能を持った韓国・釜山港との国際競争に負けた。生きたお金の使い方にならなかった。

 東北は少子高齢化が進む。公営住宅は1階に包括的なケアセンターを設けて人が集まるようにする。再生可能エネルギーのインフラを持つ新しいまちのモデルをつくる。長期的な変化に対応できるまちづくりは、日本全体にとっても必要な考えです。

 ―復興予算は2015年度までに19兆円が予定されていますが、関連性が疑われる事業の予算化が国会で議論となっています。
 復興税は被災地のためだけにと考えていない。次なる大災害に備えるのも大事だ。例えば高知県の龍馬空港一帯の防災設備は手つかず。日本社会の脆弱(ぜいじゃく)性を超え、国民の安全のために使う。その目的を逸脱して予算の分捕りゲームをする官僚の姿勢が問題です。

 ―政治の力が劣化しているということでしょうか。
 「権力集中の逆説」という言葉がある。冷戦が1990年代に終わり二つの大きな政治改革がなされた。小選挙区制度の導入と官邸機能の強化です。二大政党が政権交代する形ができ、政治優位の制度となったが、首相に権限が集中しても、それを使いこなす力量がない場合は、逆に悲惨なことになる。衆参の「ねじれ」も絡む。小泉(純一郎)政権以降、いずれも短命なのはこの「権力集中の逆説」に陥っている。

 ―北方領土、竹島、尖閣諸島をめぐる対立から、政治家の言説は勇ましいものが目立っています。
 日露で言えば協力関係をつくるチャンスです。ロシアからみれば欧州、中国との関係は難しさがある。シベリアの石油・ガス開発への協力は資源の多角化や安全保障になる。(五百旗頭さんが日本側座長の)「日ロ歴史共同研究」を始めたのは双方が同じテーマについて歴史を語り、違いを楽しめるようになるため。経済協力や相互理解の基盤をつくっていけば、領土問題でもこれまでにない解決策が見えてくるかもしれません。

 韓国とは東アジアで民主主義を共にしており、創造的な関係を築いていくべきです。ロシア、韓国との関係改善は中国への対応にもつながる。

 経済・軍事力の著しい伸びを背に中国の威迫は新段階に入ったようだ。中国は周辺の1カ国相手だと相当に強い。だが、世界にはルールがある。彼らも自分たちが世界にどう映っているのかを知るべきだ。日米同盟をしっかり持った上で日中協商を続ける。そしてルールはこうなんだと周辺諸国とともに説くことです。

 ―「近いうち」と言われる総選挙を控え、主権者である私たちがよく考えるべき点とは。
 政治が内向き、木を見て森を見ずになっている。次世代の人材づくりや、科学・文化の振興など百年の計が必要です。日本が東南アジアや太平洋でコーディネーター役を担っていたころは、領土問題を突きつけられなかった。外交が前向きでないと、こうなる。政治家も他の国の誇りや利益を心得つつ日本の国益を進める。メディアも政変に熱を上げるのではなく、政治にいい仕事をさせる視点からの報道に努めるべきです。

いおきべ・まこと
 43年兵庫県生まれ。京都大大学院法学研究科修了。69年広島大政経学部助手、同法学部助教授を経て81年神戸大教授。2006年からことし3月まで防衛大学校長を務めた。現職は、ひょうご震災記念21世紀研究機構、熊本県立大の理事長。著書に「米国の日本占領政策」(サントリー学芸賞)「占領期―首相たちの新日本」(吉野作造賞)など。文化功労者。兵庫県西宮市在住。

(2012年11月11日朝刊掲載)

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