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社説・コラム

天風録 「水陸両用車」

 街巡りのバスが水しぶきを上げて川へ。遊覧船に早変わりする―。大阪の新名物という水陸両用車の観光ツアーに加わった。幾つも橋をくぐり、お城や高層ビルが並ぶ景色を水都の川面から眺めると、確かに心浮き立つ▲SFのような技術を実用化したのは大戦中の連合軍だ。太平洋での上陸戦で力を発揮したが、それも昔の話。戦後は出番が減り、世界中の使い方は専ら観光用のようだ。水辺が身近な日本でも6カ所でお目見えしている▲軍用では時代遅れ。そんな見方もある水陸両用車を自衛隊が取り入れるという。島々に乗り込んで敵から守るとの触れ込み。かの国を頭に置くのは間違いなかろう。専守防衛なのに「上陸作戦」とは穏やかではない▲いま列島の周りでは日米共同演習が続く。いずれ新兵器の「車」も訓練にお目見えするのか。いたずらに緊張感を高めるだけなら、大陸からの観光客上陸もさらに遠のきかねない▲国内総生産(GDP)が、またも縮み始めた。景気回復には、海外から人を呼ぶ一手も要ろう。瀬戸内海にも導入された水陸両用車が島々を縦横に巡り、さまざまな言葉で歓声が上がる…。そんな「平和利用」を考えたくなる。

(2012年11月13日朝刊掲載)

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