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社説・コラム

社説 政治と核廃絶 被爆国の原点 見つめよ

 大変残念な発言である。日本維新の会代表である橋下徹大阪市長が先週末、広島市で核兵器廃絶について「理想だが、現実は無理」などと述べた。

 街頭演説の後、記者団に答えた。非核三原則が禁じる核持ち込みについても「米国の核に守られている以上あり得る。持ち込ませる必要があるなら、国民に問うて理解を得たい」と、容認する可能性を示唆したという。

 核兵器廃絶は被爆地の願いである。困難ではあろうが、決して不可能ではないはずだ。

 日本は非核三原則を国是とする。将来的には核兵器をなくす姿勢を、曲がりなりにも内外に示してきたことが、国際世論を引っ張ってきたと言ってもいいだろう。

 先週も、国連加盟国に核兵器廃絶へ向けた共同行動を呼び掛ける決議案が、国連総会第1委員会(軍縮)で採択されたばかり。日本が主導したものだ。

 とはいえこのところ、橋下氏に限らず、核をめぐる不穏な発言が政治家から相次ぐのも事実だ。日本の政治状況が核兵器廃絶に逆行するかのようで、危ういと言わざるをえない。強い憤りを覚える。

 民主党は、前回の衆院選マニフェストで「核(兵器)廃絶の先頭に立つ」と宣言し、北東アジアの非核化を目指すことなどを掲げた。

 だが一向に具体的な進展はない。それどころか野田佳彦首相は、3月の核安全保障サミットでのスピーチに核兵器廃絶の訴えを盛らないなど、疑問視される態度ばかりが目につく。

 「核兵器非合法化」声明に、日本が署名を拒否したのも看過できない。「核の傘」にあるノルウェーなども策定に加わり、30カ国以上によって国連総会第1委員会で発表された声明である。核の非人道性を認める日本が、一方で非合法化を拒むのは筋が通らない。

 福島第1原発事故の後、原発の維持は安全保障上においても不可欠、という主張が政財界において聞かれる。「潜在的核抑止力」を持つために、というものだ。

 自民党の石破茂幹事長も昨年、中国新聞のインタビューに対し、核武装には反対しながらも、原発技術の維持による核の潜在的抑止力の重要性を認めている。

 尖閣諸島や竹島をめぐって中国、韓国との対立が鮮明になって以降、核開発の能力をちらつかせて威嚇しようという論調も散見される。

 日本維新の会が、次期衆院選での連携協議を進める石原慎太郎・前東京都知事も、これまで核保有に積極的な発言をしてきた。最近は月刊誌で、中国への対抗策として「核兵器のシミュレーションが必要」「強い抑止力として働くはずだ」などと述べている。

 決められない政治への失望から、国民の間で「第三極」が注目されている。軽々に核兵器廃絶を諦めたり、保有に踏み込んだりするのではなく、平和外交の道を探り、国民に示すことはできないのだろうか。

 人類を破滅に導く核兵器は近い将来、必ず廃絶する―。広島、長崎は不断の訴えを続けてきた。歩みは一進一退であるにしても、唯一の被爆国が自らその道程を無に帰すようなことがあってはならない。

(2012年11月13日朝刊掲載)

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