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社説・コラム

『潮流』 平和を求めた告発

■論説委員 田原直樹

 ぴんとこなかった。少し前になるが、ことしのノーベル平和賞が欧州連合(EU)に贈られたこと。理由は多々あるのだろうが、引っ掛かっている。

 被爆都市広島では「平和」という言葉に接する機会が多い。あらためて平和とは何か、実現には何が必要か思いを巡らせていたら興味深い本に出会った。

 「イギリスで『平和学博士号』を取った日本人」(高文研)。英国ヨーク市に暮らす中村久司さん(62)の自伝である。

 岐阜県飛騨地方の寒村に生まれ、高校を出て税関職員に。仲間の支援も得て留学し、苦学の末、英ブラッドフォード大で学位を取る。

 平和学は紛争などの原因を調べ回避、解決し、平和維持の方策を探究する。領域は非常に幅広いが、どう実践されているのだろう。

 中村さんは英国の「軍産学」複合体を告発している。武器輸出を図りたい軍需産業や国防省の資金で、勤めていた大学が外国軍人を語学訓練していると知ったからだ。中東各国の空軍増強プログラムもあった。

 「原爆展」の企画に協力を求められたことも。軍事ビジネスを進める同僚が関わっており、展覧をだしに日本企業へ近づく企図が透けて見え、断った。学内に創設した平和研究センターは骨抜きにされた。

 学問だけでは意味がない、緊張感を持ち行動を、と中村さん。核軍縮運動にも取り組む。結局、大学を追われるが、告発はガーディアン紙などが報じた。

 その英国から今、署名活動が広がっている。15歳の少女にノーベル平和賞を、と。女子教育を求めたため、イスラム武装勢力に銃撃されたパキスタンのマララさんだ。勇気をたたえ、全ての子どもに教育を与える運動へ結びたい。

 平和の実現へ身をもって訴える人々の姿。その勇気には及ばずとも、できることはないか、自問している。

(2012年11月17日朝刊掲載)

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