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社説・コラム

社説 衆院解散 政治を再生する一歩に

 国民の政治不信が頂点に達しているのは間違いない。

 震災復興の遅れに象徴される政府や国会の機能不全。拙速で場当たり的な政策。3年前に民主党政権を生んだ国民の熱気はとうに失望に変わっている。

 きのう衆院が解散され、事実上の選挙戦に入った。遅すぎたと言わざるを得ない。

 野田佳彦首相は会見で「決められない政治の悪弊を断ちきる」と胸を張った。近いうちに信を問う、という約束は何とか守ったつもりなのだろう。だがここにきて離党者が相次ぐ足元の厳しい状況を、本当に分かっているのだろうか。

 与党は政権交代からの歩みを謙虚に反省し、あらゆる政策を仕切り直す。野党側も日本を取り巻く国内外の懸案の処方箋を明示する。それが漂流する政治を立て直し、信頼を取り戻す最低条件であろう。

違憲状態のまま

 それにしても解散間際のどたばたぶりはどうだろう。民主と自民党・公明党との話し合いで公債発行特例法や、次の次の選挙から衆院定数の1票の格差を是正する「0増5減」があっという間に国会を通過した。

 こんなことなら、なぜ早く折り合えなかったのか。特に「違憲状態」で国民の信を問うことの責任は与野党双方にあろう。

 とはいえ、国会をここまで混乱させた一義的な責任は、民主政権にあることは明らかだ。

 この衆院任期中、首相は2度も交代した。おととしの参院選で惨敗し、衆参のねじれ状態を招いたことが、最後まで政権運営に響いたといえる。

 その中で見えてきたのは、民主のマニフェストがいかにずさんだったかだ。税金の無駄遣いをやめ、その分を新たな施策に振り向ける―。発想はよかったとしても既得権益の壁を一向に崩せず、16兆円は浮かせるとの皮算用は水泡に帰した。

 社会保障の充実のためとの大義名分はあるにせよ、とどのつまりはマニフェストにはない消費増税に踏み切った。しかも党内で議論を尽くさないまま反対派を離党に追いやり、ライバルの自民・公明と手を組んだ。「決められる政治」と聞こえはいいが、二大政党制の本来の姿とは到底思えない。

敵失頼みは困る

 民主は最近になってマニフェストが実現できなかったことをしきりに陳謝しているが、有権者の納得が簡単に得られるはずもなかろう。早くも選挙での劣勢が指摘されている。

 一方、自民・公明は政権の奪回は近いとばかり、沸き立っているようにも見える。だが現時点ではその勢いは敵失に乗じたにすぎまい。

 とりわけ自民の安倍晋三総裁は下野してからの3年の歩みに思いをはせてもらいたい。

 例えば1千兆円に迫った国の借金の責任はかつての自民政権にも当然ある。その反省をどれほどしたというのか。また福島第1原発の事故につながった過去の安全軽視の原発政策をどう考えるのか。党としての総括が有権者にはまだ見えてこない。

 一度は決めたはずの世襲廃止も事実上、なし崩しだ。自民の政党支持率が民主より高いのは昔の政権への回帰願望ではないことを肝に銘じてほしい。

 前回の総選挙と大きく違うのは「第三極」が乱立し、台風の目になっていることだ。二大政党のどちらも頼りにならない。そんな思いが背景にある。

 ただ、解散を受けて政策そっちのけで合流の動きが出てきたのはいただけない。これでは有権者が何を信じていいのか分からなくなる。

政策を最優先に

 増税の是非はもちろん、脱原発を含む日本のエネルギー政策をどう考えるのか。貿易を促進する一方で、農業に打撃を与える環太平洋連携協定(TPP)にどう臨むか。

 われわれは国づくりの方向性を決める岐路に立っているといってもいい。

 1票は極めて重い。前回は有権者が「政権選択選挙」のムードにあおられたきらいもあった。今度こそ、政策をじっくり見極めることから始めたい。

(2012年11月17日朝刊掲載)

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