核先制不使用宣言を要求 2025年目標大幅削減 不拡散委閉幕
09年10月22日
■記者 吉原圭介
核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)広島会合は20日、広島市中区のホテルで取りまとめの討議をし、核兵器廃絶への道筋を示す報告書の内容で合意して閉幕した。年明けに公表する。関係者によると、2025年までの核兵器削減目標は、草案の「世界中で1千発以下」から後退し、2千発程度としたとみられる。共同議長の川口順子元外相は「大変野心的な数字。被爆者にも理解してもらえると思う」と述べた。
川口氏は閉幕後、報告書の内容について「行動指向型だ」と説明。包括的核実験禁止条約(CTBT)批准・発効を促す点や、核使用を核攻撃への反撃に限る先制不使用宣言を遅くとも2025年までに全核保有国に求めることなどを挙げ、「政府の2歩先を行く内容」と強調した。
もう一人の共同議長、オーストラリアのギャレス・エバンズ元外相は「困難な課題があったが、世界の政策決定者の考え方を変えるリポートを目指した」と述べた。
報告書は廃絶へのステップとして、(1)2012年まで(2)核の「最小化地点」に到達する2025年まで(3)「ゼロ」を達成する2025年以降―の3段階で、国際社会が取り組むべき具体的な措置を盛り込んだ。だが、廃絶の目標年次は明記していない。
今後、ICNND設置を提唱したオーストラリアと日本の首相に報告し、世界情勢の変化を踏まえて年明けに報告書を発表。来年5月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議にも提出し、各国政府に実現を働きかける。
ICNNDは昨年10月以来、会合や地域会合を開催。8回目で最終の広島会合には16カ国26人の元政府高官ら委員・諮問委員が出席し、18日から3日間討議した。
核兵器廃絶に明確な期限を設けないとの報告は、被爆者をはじめ市民の願いが伝わることを期待していただけに大変残念だ。2020年までの廃絶は技術的にも物理的にも可能。明確な期限の設定が不可欠である。
■記者 金崎由美
核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)が被爆地での3日間の議論を経てまとめた報告書は、廃絶の目標年次を示さず、2025年時点の世界の核削減目標も草案段階から後退した。実現可能性を優先したとはいえ、廃絶への決意や核兵器否定の理念は感じにくく、被爆地で最終会合を開いた意味が問われる結末だと言わざるを得ない。
川口順子、ギャレス・エバンズ両共同議長は会議終了後の記者会見で「行動指向型」「実現可能な内容」と強調した。だが、ゼロを目指すと言いつつ、その時期を2025年以降としただけで明示しない理由は理解しがたい。何より「一日でも早く」「遅くとも2020年までに」と訴えてきた被爆地の思いとの隔たりは大きい。
実現可能性と妥協とは紙一重だろう。弾頭数の削減目標は最終草案段階の「25年までに1千発以下」から後退。議論の過程では、核を持つ国同士の利害対立という見慣れた構図が繰り広げられたとされる。それは、政府の立場を離れた識者による討論というICNNDの存在価値を自ら弱めてはいないか。
各国政府が報告書の内容を踏まえて行動するには、市民社会の後押しも欠かせないはずだ。その意味で、世界各地の市民団体などが主張してきた「先制不使用宣言」の時期を草案段階から先送りし、核兵器禁止条約の実現も将来課題と位置付けている点も見逃せない。
理想か現実かの選択だとしても、その現実すら実現できなければ、支持は失望にたやすく変わる。各国政府が報告書の内容を真摯(しんし)に受け止め、一つ一つを実行していくには、来年5月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議で国際社会の合意とするなど、実現性を担保する取り組みも不可欠となる。
ICNNDの川口順子、ギャレス・エバンズ両共同議長の20日の記者会見要旨は次の通り。
川口氏 広島で市民や非政府組織(NGO)と交流し、二度と(原爆被害を)起こさないようにしなければとの気持ちになった。この手順で進めば(核兵器を)ゼロにしていける包含的な内容になった。(「核兵器のない世界」を追求する)オバマ米大統領がノーベル平和賞を受賞するなど、恵まれた時期に報告書を出すことができる。
エバンズ氏 困難な課題もあったが、世界の政策決定者の考え方を変えていくことを目指した。200ページの最終報告書を全会一致できたことは誇りだ。広島、長崎の原爆投下以来、核兵器は使われていないが、ラッキーだっただけだ。
―核の削減目標は。
エバンズ氏 非常に少ないものを目指している。それ以上は答えられない。数は合意した。もう変わらない。
―なぜ数を言えないのですか。
川口氏 日本とオーストラリア両政府の合意で始まった。まず両国首相に伝えたい。
―「先制不使用」については。
エバンズ氏 すべての核保有国が先制不使用を宣言することは、核兵器ゼロにする重要なステップ。2025年までとしたが、もっと早い時期の実現を願う。
―遅いのでは。
エバンズ氏 核兵器のない世界を明日にでも見たい。被爆者に何度も会い、強く思っている。しかし望むだけでは実現はしない。報告書を見れば、理解してもらえるはずだ。
(2009年10月21日朝刊掲載)
関連記事
「2020年核廃絶」採用困難 不拡散委 2日目討議 川口議長が示唆 (09年10月20日)
「核の非人道性強調を」 不拡散委 討議スタート 広島(09年10月20日)
2025年に核1000発以下 ICNND報告書 最終草案(09年10月19日)
核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)広島会合は20日、広島市中区のホテルで取りまとめの討議をし、核兵器廃絶への道筋を示す報告書の内容で合意して閉幕した。年明けに公表する。関係者によると、2025年までの核兵器削減目標は、草案の「世界中で1千発以下」から後退し、2千発程度としたとみられる。共同議長の川口順子元外相は「大変野心的な数字。被爆者にも理解してもらえると思う」と述べた。
川口氏は閉幕後、報告書の内容について「行動指向型だ」と説明。包括的核実験禁止条約(CTBT)批准・発効を促す点や、核使用を核攻撃への反撃に限る先制不使用宣言を遅くとも2025年までに全核保有国に求めることなどを挙げ、「政府の2歩先を行く内容」と強調した。
もう一人の共同議長、オーストラリアのギャレス・エバンズ元外相は「困難な課題があったが、世界の政策決定者の考え方を変えるリポートを目指した」と述べた。
報告書は廃絶へのステップとして、(1)2012年まで(2)核の「最小化地点」に到達する2025年まで(3)「ゼロ」を達成する2025年以降―の3段階で、国際社会が取り組むべき具体的な措置を盛り込んだ。だが、廃絶の目標年次は明記していない。
今後、ICNND設置を提唱したオーストラリアと日本の首相に報告し、世界情勢の変化を踏まえて年明けに報告書を発表。来年5月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議にも提出し、各国政府に実現を働きかける。
ICNNDは昨年10月以来、会合や地域会合を開催。8回目で最終の広島会合には16カ国26人の元政府高官ら委員・諮問委員が出席し、18日から3日間討議した。
秋葉忠利広島市長の話 廃絶期限は不可欠
核兵器廃絶に明確な期限を設けないとの報告は、被爆者をはじめ市民の願いが伝わることを期待していただけに大変残念だ。2020年までの廃絶は技術的にも物理的にも可能。明確な期限の設定が不可欠である。
<解説>不拡散委報告書 被爆地の思いと隔たり 廃絶の決意遠く
■記者 金崎由美
核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)が被爆地での3日間の議論を経てまとめた報告書は、廃絶の目標年次を示さず、2025年時点の世界の核削減目標も草案段階から後退した。実現可能性を優先したとはいえ、廃絶への決意や核兵器否定の理念は感じにくく、被爆地で最終会合を開いた意味が問われる結末だと言わざるを得ない。
川口順子、ギャレス・エバンズ両共同議長は会議終了後の記者会見で「行動指向型」「実現可能な内容」と強調した。だが、ゼロを目指すと言いつつ、その時期を2025年以降としただけで明示しない理由は理解しがたい。何より「一日でも早く」「遅くとも2020年までに」と訴えてきた被爆地の思いとの隔たりは大きい。
実現可能性と妥協とは紙一重だろう。弾頭数の削減目標は最終草案段階の「25年までに1千発以下」から後退。議論の過程では、核を持つ国同士の利害対立という見慣れた構図が繰り広げられたとされる。それは、政府の立場を離れた識者による討論というICNNDの存在価値を自ら弱めてはいないか。
各国政府が報告書の内容を踏まえて行動するには、市民社会の後押しも欠かせないはずだ。その意味で、世界各地の市民団体などが主張してきた「先制不使用宣言」の時期を草案段階から先送りし、核兵器禁止条約の実現も将来課題と位置付けている点も見逃せない。
理想か現実かの選択だとしても、その現実すら実現できなければ、支持は失望にたやすく変わる。各国政府が報告書の内容を真摯(しんし)に受け止め、一つ一つを実行していくには、来年5月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議で国際社会の合意とするなど、実現性を担保する取り組みも不可欠となる。
共同議長会見要旨
ICNNDの川口順子、ギャレス・エバンズ両共同議長の20日の記者会見要旨は次の通り。
川口氏 広島で市民や非政府組織(NGO)と交流し、二度と(原爆被害を)起こさないようにしなければとの気持ちになった。この手順で進めば(核兵器を)ゼロにしていける包含的な内容になった。(「核兵器のない世界」を追求する)オバマ米大統領がノーベル平和賞を受賞するなど、恵まれた時期に報告書を出すことができる。
エバンズ氏 困難な課題もあったが、世界の政策決定者の考え方を変えていくことを目指した。200ページの最終報告書を全会一致できたことは誇りだ。広島、長崎の原爆投下以来、核兵器は使われていないが、ラッキーだっただけだ。
―核の削減目標は。
エバンズ氏 非常に少ないものを目指している。それ以上は答えられない。数は合意した。もう変わらない。
―なぜ数を言えないのですか。
川口氏 日本とオーストラリア両政府の合意で始まった。まず両国首相に伝えたい。
―「先制不使用」については。
エバンズ氏 すべての核保有国が先制不使用を宣言することは、核兵器ゼロにする重要なステップ。2025年までとしたが、もっと早い時期の実現を願う。
―遅いのでは。
エバンズ氏 核兵器のない世界を明日にでも見たい。被爆者に何度も会い、強く思っている。しかし望むだけでは実現はしない。報告書を見れば、理解してもらえるはずだ。
(2009年10月21日朝刊掲載)
関連記事
「2020年核廃絶」採用困難 不拡散委 2日目討議 川口議長が示唆 (09年10月20日)
「核の非人道性強調を」 不拡散委 討議スタート 広島(09年10月20日)
2025年に核1000発以下 ICNND報告書 最終草案(09年10月19日)