×

社説・コラム

社説 ガザ停戦合意 長期和平へなお努力を

 パレスチナ自治区ガザをめぐり、武力で応酬していたイスラエルと、イスラム原理主義組織ハマスが停戦に基本合意した。イスラエル軍によるガザ地上侵攻という事態は当面、避けられそうだが、予断は許さない。

 今回の紛争はイスラエル軍によるハマス司令官暗殺で激化した。ハマス側から中枢都市のエルサレムやテルアビブにもロケット弾が着弾し、これまでに全土で5人が死亡している。

 これに対しイスラエル軍は連日、空爆やミサイルでガザを攻撃し、子ども多数を含む162人の死者が出た。19日には地上侵攻の警告を発していた。

 停戦は歓迎するところだが、両者は直接交渉を拒否している点が気がかりだ。仲介したエジプトが合意違反などを今後追跡調査するという。イスラエルは事態を見極めようと、ガザ周辺の地上部隊は当面動かさない。

 イスラエルはおととし、トルコ人活動家に死者も出たガザ支援船拿捕(だほ)事件で、アラブ諸国だけでなく国際社会の批判を浴びた。加えて昨年春の「アラブの春」以降、中東情勢が様変わりする中で孤立を深めている。

 中でも地域大国のエジプトに穏健派イスラム組織・ムスリム同胞団の系列の政権が誕生したことは衝撃を持って受け止めたのだろう。現政権のネタニヤフ首相は物価高騰などを招いた内政のつまずきで国民の批判を受けており、今回の対外強硬姿勢につながったのではないか。

 一方、ハマスもイスラム色を強めたエジプトを後ろ盾に、イスラエルが停戦条件に屈服した、と強気だ。2007年から続くイスラエルによるガザ封鎖の解除を目指すのだろう。

 確かに封鎖はガザの食料や燃料、医薬品などの不足を招き、住民の生命と暮らしを脅かしている。人道的な見地からイスラエルは撤退を決断すべきだ。

 米国はエジプトのムルシ大統領とともに仲介に動いたが、遅きに失した感がある。中東での影響力低下は否めない。

 オバマ政権は中国の台頭を念頭に、安全保障政策の重点をアジア太平洋地域に移す方針を表明している。再選後、最初の外交活動で東南アジアを歴訪し、歴史的なミャンマー訪問に踏み切った。その間隙(かんげき)を突かれたかのような中東の混乱だ。外交政策の見直しを迫られよう。

 そもそも今回の武力衝突はイランと米の代理戦争の様相が色濃い。ハマスはイラン製の長距離ロケット弾でイスラエルの市民生活を脅かした。対するイスラエルは米の支援による迎撃システムで対抗した。

 来年1月の総選挙を控え、ネタニヤフ氏は強い指導者をアピールしたいところだろう。停戦後もガザへの武器密輸の監視を強化するとみられるが、それは必ずや摩擦を引き起こし、長期にわたる和平は見通せない。

 占領地であるヨルダン川西岸などへのユダヤ人入植地建設を進めていることも、将来のパレスチナ国家建設に影響するため国際社会を刺激している。

 イランの核兵器疑惑に伴い、イスラエルはイランへの軍事攻撃を常に想定していると思われる。中東情勢で最悪のシナリオを避けるためには、米はイスラエルの「自衛権」に厳しい姿勢を見せるとともに、イランとの膠着(こうちゃく)状態の打開に踏み切るしかない。

(2012年11月23日朝刊掲載)

年別アーカイブ