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社説・コラム

社説 ’12衆院選 未来の党結成へ 「卒原発」道筋どう示す 

 「第三極」の新たな核となるだろうか。衆院選の公示を目前に、滋賀県の嘉田由紀子知事が自らを代表とする新党「日本未来の党」の結成を表明した。

 持論の「卒原発」などを掲げる。知事の座にとどまりつつ、「この指止まれ」方式で理念が同じ勢力を結集したいという。小沢一郎氏率いる国民の生活が第一などは早速、合流を決めた。

 原発とエネルギー政策の行方が大きな争点となる選挙である。選択肢が増え、論戦が活発化することは望ましい。

 ただ、今の段階での政党の離合集散は有権者の混乱を招きかねない。どんな陣容で臨むか。具体的な政策をどうするか。早急に明確にすべきだ。

 きのうの会見で、嘉田知事は全ての原発の段階的廃止や、消費増税前の無駄排除などを基本政策として掲げた。日本の政党政治が流動化する中で、地方の首長から衆院選に一石を投じた行動には意味があろう。

 脱原発を掲げる新党が急浮上した背景に、何があったのか。

 嘉田知事は福島第1原発の事故の後、隣の福井県に多くの原発が立地するリスクを強く訴えてきた。大飯原発の再稼働にも反対した。それだけに衆院選の結果次第で脱原発の流れが後退しかねないことに、危機感を抱いてきたのは確かだ。

 現時点で優勢と伝えられる自民党は、原発をどうするかがあいまいだ。さらには台風の目となりそうな日本維新の会も、太陽の党との合流に伴い脱原発の姿勢を後退させている。こうした状況から、原発そのものを不安視する有権者の受け皿になりうると踏んだのだろう。

 だが公示まで1週間を切っただけに、課題も少なくない。

 肝心の脱原発にしても、理念を唱えるだけでいいのか。重点政策に据えるのなら、廃炉の手順や代替エネルギー調達について具体的な道筋を示す必要がある。当面の再稼働と電力確保にどう向き合うかも問われる。

 さらにいえばワンテーマでは国政を担うのは難しい。消費増税とも関連する社会保障の将来像や、環太平洋連携協定(TPP)をめぐる政策なども欠かせないはずだ。どれほど詰めることができるだろう。

 新党の動きには、小沢氏による生き残り戦略も見え隠れしている。事前に嘉田知事と会談していたとも伝えられる。

 合流するのは「生活」のほか、河村たかし名古屋市長らが率いる「減税日本・反TPP・脱原発を実現する党」である。第三極の軸として維新の会ばかりが注目を浴びる中、ばらばらのままでは劣勢は免れないとの思惑もありそうだ。「しょせんは選挙互助会」という冷ややかな見方もある。

 民意を問う枠組みも、はっきりしない。一本化はしないが選挙協力する。そんな党との連携のために比例代表の統一名簿方式も検討されているという。分かりにくい話である。

 とはいえ「未来の党」の登場によって選挙戦の構図が変わるのは間違いない。場合によっては政局を左右することもありえよう。有権者の側も、政策の中身をしっかり吟味したい。

 共産党や社民党も、原発ゼロを掲げているものの、第三極に埋没している印象は否めない。伝統政党としての存在感が、あらためて問われよう。

(2012年11月28日朝刊掲載)

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