『潮流』 40万人が逃げる
12年12月4日
■松江支局長 冨田将嗣
数十万人が一斉に逃げる場面を想像してみる。「パニック」「スタンピード(集団暴走)」といった負のイメージがつい浮かぶのは、こちらの考え方が悲観的すぎるためだろうか。
中国電力島根原子力発電所(松江市鹿島町)で福島第1原発級の事故があったとき、住民はどう逃げるのか。島根県が先月、その道筋を公表した。原発30キロ圏内の県内4市の39万6千人を、県内と広島、岡山、鳥取の4県70市町村から選んだ149カ所に避難させる壮大な計画である。
福島の事故を受けて昨年5月、策定に着手した。避難先への打診、了承の取り付けなど担当職員の苦労は想像に余りある。国の最終方針が未定のため、あくまで中間的な計画だろうが、見えない放射性物質から40万人を避難させるには、人知を超えるほどの想像力が必要だと思い知らされる。
まず避難手段。計画では原則、学校などの施設にいる人や移動手段のない人は県が調達したバス、そのほかは自家用車を利用する。島根県東部の幹線道は1車線がほとんどで、大渋滞は必至だろう。
また避難先は経由所との位置付けで、40万人がまた最終的な避難所へ移動することになる。だれが、どう指揮するのか。ほかにも30キロ圏外からの通勤通学者への対応、集団避難より親戚や知人を頼る住民の動向把握など不明な点も多い。
国は10月、福島と同等の事故が全国の原発で発生した場合の放射性物質の拡散予測を公表した。島根原発では、国際原子力機関が避難の判断基準とした拡散地域は原発から24・2キロの安来市にまで及んだ。真剣に県外への避難を考え始めた家庭もあるという。
福島の事故後、初の本格的な国政選挙となる衆院選がきょう公示される。原発を抱える島根1区。避難計画と拡散予測が民意を動かすこともあるだろうか。
(2012年12月4日朝刊掲載)
数十万人が一斉に逃げる場面を想像してみる。「パニック」「スタンピード(集団暴走)」といった負のイメージがつい浮かぶのは、こちらの考え方が悲観的すぎるためだろうか。
中国電力島根原子力発電所(松江市鹿島町)で福島第1原発級の事故があったとき、住民はどう逃げるのか。島根県が先月、その道筋を公表した。原発30キロ圏内の県内4市の39万6千人を、県内と広島、岡山、鳥取の4県70市町村から選んだ149カ所に避難させる壮大な計画である。
福島の事故を受けて昨年5月、策定に着手した。避難先への打診、了承の取り付けなど担当職員の苦労は想像に余りある。国の最終方針が未定のため、あくまで中間的な計画だろうが、見えない放射性物質から40万人を避難させるには、人知を超えるほどの想像力が必要だと思い知らされる。
まず避難手段。計画では原則、学校などの施設にいる人や移動手段のない人は県が調達したバス、そのほかは自家用車を利用する。島根県東部の幹線道は1車線がほとんどで、大渋滞は必至だろう。
また避難先は経由所との位置付けで、40万人がまた最終的な避難所へ移動することになる。だれが、どう指揮するのか。ほかにも30キロ圏外からの通勤通学者への対応、集団避難より親戚や知人を頼る住民の動向把握など不明な点も多い。
国は10月、福島と同等の事故が全国の原発で発生した場合の放射性物質の拡散予測を公表した。島根原発では、国際原子力機関が避難の判断基準とした拡散地域は原発から24・2キロの安来市にまで及んだ。真剣に県外への避難を考え始めた家庭もあるという。
福島の事故後、初の本格的な国政選挙となる衆院選がきょう公示される。原発を抱える島根1区。避難計画と拡散予測が民意を動かすこともあるだろうか。
(2012年12月4日朝刊掲載)