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社説・コラム

社説 ’12衆院選 外交・安保 アジアの信頼 どう構築

 沖縄県の尖閣諸島周辺には連日、中国の海洋監視船が現れる。北朝鮮は週明けにも「人工衛星」の発射を強行する構えである。東アジアの緊張は一向にほぐれない。

 そうした厳しい状況のもとでの衆院選である。外交のかじ取りも重要な争点であることは言うまでもない。

 波風が立つ近隣諸国との信頼関係を、どう再構築するか。

 この3年余りの民主党政権を見る限り、十分な戦略なしに場当たり的な行動を繰り返してきた印象は拭えない。その教訓を踏まえ、将来を見据えたビジョンが求められよう。

 何より問われるのが対中関係の打開だ。世界第2位の経済大国に成長し、海軍力増強と資源確保の思惑を背景に強気の外交を繰り広げている。尖閣の問題はその一環ともいえるだろう。

 東京都による尖閣諸島の購入の動きを受け、野田佳彦首相は慌てて国有化にかじを切った。その手順には賛否両論があろうが、本来、中国から文句を言われる筋合いはないはずだ。なのに中国ではデモが多発し、日本経済にも打撃を与えた。

尖閣問題 冷静に

 日本は動じることなく、自国の立場を冷静に国際社会に訴えるべきだ。

 中国とは紆余(うよ)曲折を経て国交正常化し、歴代政権や民間団体などが積み重ねた努力の上に今がある。経済的には切っても切り離せない隣人でもある。

 だが今回の選挙では、より強い姿勢で活路を見いだそうとの主張も見られる。理不尽な振る舞いに毅然(きぜん)とした態度を取るのは当然だが、事を荒立てるだけでは外交とはいえまい。人脈とチャンネルを再構築し、日本だけでなく国際社会と協調するよう粘り強く働きかけるしかない。

 竹島の問題を抱える韓国、北方領土の占拠を続けるロシアとの向き合い方も同様だろう。

 小泉純一郎氏の首相退陣以降、政権がめまぐるしく交代してきた。腰を据えた外交には程遠かった点でいえば、自民も民主もなかろう。日本の外交力の立て直しは急務である。

 同盟関係にある米国との関係をあらためて見つめ直すのも当然のことだろう。

大局的な視点を

 中国の「脅威」を考えると、米国の軍事力にもっと頼るべきだ。そんな声があるのは確かだ。憲法9条の改正や集団的自衛権の行使を掲げる党もある。

 それは近隣国の不信感を和らげてきた専守防衛の見直しにつながるとともに、米国の軍事戦略に自衛隊がこれまで以上に組み込まれることでもあろう。

 だが同盟国とはいえ、スタンスが異なることはありうる。「対米従属」ではなく、あくまで日本としての戦略と国益が求められるはずだ。

 現に冷戦後の安全保障環境は大きく動き、米国の世界戦略も変化している。日米同盟を金科玉条とするだけで、安全が担保される保証があるのかどうか。長期的に見てどうすれば平和と安定に資するか、何より大局的な視点に立つべきであろう。

 その意味でも、沖縄の米軍基地をどうするかの議論は欠かせない。重すぎる基地負担への住民の怒りはかつてなく高まっている。

 日米関係を強化するにしても、こうした「ひずみ」の是正が必要条件となろう。なのに積年の懸案である普天間飛行場の移設問題などが一向に争点になっていないのは残念だ。

非核の対話こそ

 北朝鮮政策も仕切り直しが要る。「ミサイル」の問題にしても、ぎくしゃくする中国や韓国、ロシアとも協調して対応する努力が、やはり不可欠だ。停滞する拉致問題の解決のためにも包囲網をつくり直したい。

 被爆国としての存在感も発揮すべきだ。いま市民団体などの間で北東アジアを非核地帯とする構想が検討されている。日本、韓国、北朝鮮を非核化し、周りの核保有国は核攻撃を加えないと取り決める案である。

 ハードルは高くても、日本が積極的に呼び掛けること自体が信頼醸成のプロセスとなる。

(2012年12月7日朝刊掲載)

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