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社説・コラム

社説 臨界前核実験 被爆国なぜ抗議しない

 米国がまたも臨界前核実験を強行した。許し難い核大国の暴挙と言わざるを得ない。

 オバマ大統領は就任直後のプラハ演説で「核兵器のない世界を目指す」とうたいあげたはずだ。その意気込みは、いったいどこに行ったのだろう。

 被爆者が裏切られた思いにかられるのも無理はない。しかも政権に就き、はや4回目の臨界前である。ヒロシマは憤りを通り越し、あきれ果ててもいる。

 オバマ政権での過去3回の実験と共通するのは、実験場の周辺住民やマスコミに事前の告知をしなかったことだ。一方、これまでとの違いは、実験直後に公表した点である。

 しかも今回は、実験の一部を収めた動画をインターネットの投稿サイトを通じて公開するという異例の対応もした。核政策の透明性をアピールするためとの見方があるようだ。

 だとしても、再選を決めたばかりのオバマ大統領が、なぜこの時期に強行したのだろう。

 中東では核開発疑惑があるイランに対し、事実上の核兵器保有国であるイスラエルが攻撃を仕掛けるのではないかとの緊張が高まっている。さらに北朝鮮は、核弾頭を搭載すれば大陸間弾道ミサイルにもなる「人工衛星」の発射を予告した。

 このタイミングを狙ったとみることもできよう。とはいえ、圧倒的な核戦力を誇示することで、イランや北朝鮮は核開発を断念すると考えているとすれば、見当違いも甚だしい。

 自国の保有を棚に上げる核大国のエゴが、むしろ核拡散を招いてきたことは第2次世界大戦後の歴史が物語る。しかも東西冷戦がとうに終わった今、安全保障を核にたのむ姿勢そのものが時代錯誤ではないか。

 米当局は「核兵器の安全性や有効性を維持するため」とのコメントを発表した。しかし、放射性物質をまき散らし、人類を地球もろとも滅亡させる兵器の威力を試すこと自体が、国際社会を「安全」から遠ざける。

 米国はさらに、臨界前は核爆発を伴わないため包括的核実験禁止条約(CTBT)に違反しないとも主張する。しかし、そのCTBTに米国は調印こそしたが、議会での批准手続きが遅れている。本腰を入れて議会を説得するのが先ではないか。

 確かにオバマ大統領はプラハ演説で同時に、核兵器が存在する限り米国は核戦力を維持するとも述べている。その言葉に従っているとの見方もできよう。

 ならば、その演説がノーベル平和賞につながった事実を大統領はどう考えているのだろう。「核まみれの世界」を目指すのなら、潔くノーベル賞を返還すべきではないか。

 核兵器は人道に反するという当たり前のことを再確認しよう―。スイスやノルウェーなど30カ国以上がことしの国連総会で共同声明を発表した。臨界前核実験は、こうした国際社会の潮流に真っ向から対立する行為ともいえる。

 なのに、ほかならぬ被爆国日本が、その潮流に背を向けるのはいかがなものか。共同声明への署名を拒否しただけでなく、米国の臨界前核実験には抗議しない姿勢を貫いている。

 そのどこが被爆国の平和外交といえるのだろう。くしくも衆院選のさなかだ。各党や候補者はとことん論じてもらいたい。

(2012年12月8日朝刊掲載)

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