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社説・コラム

社説 ’12衆院選 憲法 改正論議 熟していない

 正面きった争点には浮上していないものの、かつてなく現実味を帯びてきた感は否めない。憲法改正をめぐる動きだ。

 1990年代まで続いた自民党、旧社会党のいわゆる「55年体制」では、最大野党が護憲政党であり、ウイングの広い保守の中でも「ハト派」は一翼を担っていた。

 護憲を原則とする政党は今もなお複数存在しているが、憲法も時代の変化に対応すべきだ、という考え方が政界全体に広がっているのだろうか。

 憲法96条に定められるように、改正の発議には衆参各院の3分の2以上の賛成が必要だ。2005年、09年の衆院選は現実に自民、民主両党がそれぞれ3分の2の勢力を占めた。自民党はもともと自主憲法制定を掲げてきたし、民主党も党内に改憲派が少なくない。

 これまでは高いという実感があった憲法改正の「ハードル」は確実に低くなってきたといえる。有権者もその是非について、無関心ではいられまい。

 現実には戦争放棄と戦力・交戦権の否認をうたった9条がクローズアップされている。

 自民党は平和主義など3原理を継承しつつ、憲法改正で自衛隊を国防軍に位置付けることを政権公約に明記した。改正の発議要件の緩和も加えている。

 確かに9条の文言と自衛隊の現実の間に矛盾はある。国連平和維持活動(PKO)に伴う自衛隊の海外派遣は常態化し、インド洋給油支援などを見れば米国の軍事戦略との一体化は明らかだ。

 しかし、憲法の持つ平和主義の理念こそ、ヒロシマ・ナガサキの非核の訴えを裏付けてきた。平和主義自体をなげうつような政権公約は今のところ見受けられない。憲法の根幹の部分に触れることには今なお、多くの国民の抵抗があろう。

 ただ、おとといの北朝鮮の「ミサイル」発射に伴い、安全保障をめぐる論議に関心が高まるのは必至だ。米国本土に向かうミサイルを日本のミサイル防衛システムで撃破することがあれば、集団的自衛権行使に当たるのではないか。

 自民党は「国家安全保障基本法」の制定も政権公約に掲げている。維新も同じだ。憲法を改正しなくても、解釈の変更で集団的自衛権の行使を可能にしようという。

 9条は「国権の発動たる戦争」を禁じている。「正義と秩序を基調とする国際平和」を希求すべきわが国にとって、交戦が生じるような同盟国の戦争に参加することには、強い疑問を呈しておかざるを得ない。

 自民党の現在の路線には選挙協力する公明党にも警戒感があるようだ。景気対策や被災地復興など課題が山積する時期にあえて、政権政党が国民の間の対立を深めることはあるまい。

 むろん自由な憲法論議を否定するものではない。

 維新は首相公選制や参議院廃止など統治機構改革のための憲法改正も訴えている。

 だが、解散前後には政党の離合集散ばかりが目立った。自党の公約に理解を深めるには時間がなかった候補者もいるだろう。有権者にどれだけかみ砕いて伝えただろうか。

 憲法改正の議論はいまだ熟していない。数に物言わせぬ慎重な判断を望みたい。

(2012年12月14日朝刊掲載)

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