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社説・コラム

社説 安倍政権始動へ 懐深く安定した政治を

 早くも「危機突破内閣」と名付けた。外交、経済などの懸案にスピード感を持って取り組む、というアピール自体は伝わってきた。

 きのう、衆院選で大勝した自民党の安倍晋三総裁が記者会見した。26日にも発足する政権の運営方針を表明する場だったが、印象的だったのは慎重な物言いである。とりわけ、憲法改正や中国に対する強硬姿勢などタカ派的な持論は控え目にしているように見えた。

 すでに照準は、来年夏の参院選だ。とりあえず、政権のかじ取りで安全運転に努める。民主党が多数を占める参院選で勝利し、衆参の「ねじれ」を解消して長期政権につなげる―。そんな意図が透けて見える。

 沖縄・尖閣諸島の領有権をめぐり対立が深まる対中関係。安倍氏は「交渉の余地はない」とけん制すると同時に、日中関係を「傷つけないことが極めて重要」とも言及した。靖国神社の参拝も、「(前回の首相在任中に)できなかったのは痛恨の極み」としつつ、方針の明言までは避けた。

 一つ間違えれば日中関係はさらに混迷を深める。慎重さが欠かせない。党内の対中強硬派と折り合い、自らが首相だった6年前にうたった「戦略的互恵関係」の構築に立ち返る努力を求めたい。

 国民が一刻も早い取り組みを望むのは、景気回復だろう。本年度の補正予算案について安倍氏は、デフレ脱却に向けて大型予算を編成する考えを強調した。その財源について「建設国債か赤字国債か(の判断)はこれからだ」とする。

 喫緊の課題とはいえ、財政規律が緩むリスクはないのか。もし参院選向けの大盤振る舞いという意図ならば、後で国民にツケが回ってきかねない。早くも手腕が問われている。

 安倍氏の指す「危機」の多くは、政権交代前の自民党政権から民主党政権へと引き継がれた懸案でもある。その自民党が3年間でどう反省し、生まれ変わったか。有権者の関心だろう。一度首相を務めながら辞任し、後の自民党下野を招いたと批判された安倍氏自身に対しても同じ目が向けられていよう。

 初めて首相に就任した際は「お友達内閣」ともやゆされた。今回の党役員人事では、衆院選を仕切った石破茂幹事長を留任させると表明した。新内閣は民間人や女性を積極登用する方針と伝えられる。側近で固めることなく、懐の深さをみせてほしい。

 国会運営にも、数に物を言わせない慎重さを求めたい。

 自民、公明両党で今回、衆院定数の3分の2以上を確保した。政権公約で掲げた憲法改正について、安倍氏は参院選以降の着手を見越す。

 ただ、現状でも参院で否決された法案を衆院で再可決できるようにはなる。

 党利党略を優先し、数の力で押し切る手法の「危機突破」ならば、他党のみならず国民も反発するだろう。「脱原発」など、自民党が距離を置いている世論の広がりにも向き合う姿勢が求められる。

 「自民党に対する信頼が百パーセント戻ったわけではない」。そう自らを戒めた言葉を忘れれば、民意のしっぺ返しを食うだろう。

(2012年12月18日朝刊掲載)

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