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社説・コラム

社説 安倍外交始動 政経バランスどう取る

 年が明け、新政権の外交が本格的に始動した。安倍晋三首相のタカ派的な持論に対し、近隣諸国には警戒心もある。いかに安定した関係を築くか。すぐにも政権の真価が問われよう。

 まず手をつけたのが対韓外交だ。きのう首相の「特使」として額賀福志郎元財務相が韓国入りし、昨年12月に当選した朴槿恵(パク・クネ)次期大統領に「良好な2国間関係を築きたい」との首相親書を手渡した。

 朴氏の就任は来月だ。この段階の動きは北朝鮮情勢が不安視される中、韓国の現政権によってこじれた関係をいち早く修復したいとの意欲の表れだろう。

 両国関係は昨年、島根県・竹島の領有権をめぐる韓国側の強硬姿勢により亀裂が深まった。もともと従軍慰安婦の問題も影を落とす。首相自身も解決が簡単でないことは十分に自覚しているようだ。政権の座に就いてからは衆院選で掲げていた政府主催の「竹島の日」式典の見送りを決めるなど、韓国側への配慮をにじませていた。

 日本側の姿勢をそれなりに評価したのだろう。朴氏は「歴史を直視しつつ」と前置きした上で「融和と協力の関係をつくっていきたい」と応じた。

 新たな気掛かりも出てきた。靖国神社に放火した後、在韓日本大使館に火炎瓶を投げて服役した中国人元受刑者の日本への引き渡しを韓国ソウル高裁が拒否したからだ。首相もきのうの年頭会見で厳しく批判した。朴氏の就任後、火種としてくすぶる可能性も否めない。

 一方、対中関係をどう打開するかは、安倍政権としても手探りのようだ。いまだ習近平新指導部の対日政策が読み切れないことも背景にあろう。

 昨年、沖縄県の尖閣諸島を日本が国有化して以来、中国は周辺の領空・領海の侵犯を繰り返す。日本が毅然(きぜん)とした態度を示すのは当然だが、対応を誤ればさらなる関係冷却化はおろか不測の事態も招きかねない。

 経済的には日本は既に大きな打撃を受けている。対中輸出の低迷や訪日旅行者の減少は、景気悪化の一因であるのは確かだ。いずれ米国を抜き、世界1位になると予想される経済力は、今後とも軽視できまい。

 韓国同様、首相は中国に対しても強硬策を「封印」した。尖閣諸島に公務員を常駐させることだ。関係改善へのメッセージといえる。中国とのパイプを持つ自民党の高村正彦副総裁を特使とすることも検討する。

 かねて日中関係は「政冷経熱」とも評されてきた。安倍政権は外交的に意見が異なってもお互いの経済的利益は損なわない関係を築く必要がある。

 それは北方領土問題の解決がここにきて遠のいた感もあるロシアとの関係も同じだろう。

 首相は、こうした難題解決のためにも日米関係の強化は欠かせないとの持論である。年頭会見でも「外交と安保政策の基軸は日米同盟。絆を再び強化することを一番優先しないといけない」と強調した。

 ただ日米協力が軍事面に傾斜し、海洋覇権をうかがう中国と力だけで対抗する姿勢なら不安は拭えない。与党内に異論のある集団的自衛権の行使に道を開くことにもつながりかねない。

 隣人と共存する。その大前提からはずれることなく、冷静な外交に徹すべきである。

(2013年1月5日朝刊掲載)

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