×

社説・コラム

社説 核兵器廃絶 被爆国の使命 忘れまい

 被爆地ヒロシマに寒風が吹き荒れているといえば、大げさに過ぎるだろうか。悲願である核兵器廃絶をめぐり、内外の情勢は今なお、冷たく厳しい。

 足元では体験の風化も叫ばれている。米国による原爆投下から、ことしで68年。被爆者の記憶はなお鮮明だが、その体験を肉声で聞く機会が減ったのは確かであろう。

 だからこそ私たちは、あの記憶を被爆地全体で受け継ぎ、国際社会と共有していくしかあるまい。若い世代も含めて一人一人がその方策を考え、核兵器のない世界に向けて行動に移す。そんな再スタートを切る2013年にしよう。

 ヒロシマを揺るがす逆風の最たるものは、核兵器を抑止力とたのむ考え方ではないか。

 核武装を検討すべきだとの声も聞かれた昨年末の衆院選。集団的自衛権の行使容認や憲法9条の改正に前のめりの自民党が圧勝し、政権へと返り咲いた。

 一連の主張は、軍事大国へひた走る中国、核兵器の開発に国家としての存亡を懸ける北朝鮮に対する牽制(けんせい)にはなろう。

 しかし軍事力を互いに誇示することは、地域の安定に逆効果となりかねない。むしろ「核兵器のない北東アジア」を実現する強い意志を各国が分かち合う必要がありはしないか。

 その意味で安倍晋三首相の言葉をかみしめたい。本紙インタビューで「核兵器廃絶へリーダーシップを取る姿勢はみじんも揺るがない」「非核三原則を堅持する」と明言した。

 次は行動で示してほしい。北東アジア非核兵器地帯の創設を政権の目標に掲げてもらいたい。国境を越えて非核三原則を拡大する道筋でもある。

 もう一つは米国との関係だ。安倍首相は日米同盟を再構築するという。ならばまず、きちんともの申す姿勢が不可欠だ。

 米国は包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准を先送りし臨界前核実験を続ける。こうした傍若無人ぶりが逆に、北朝鮮やイランに核開発への口実を与えてきたのは間違いない。

 中東ではそのイランに対し、事実上の核兵器保有国イスラエルが先制攻撃も辞さない構えで、一触即発の緊張が続く。

 再選を決めたオバマ米大統領がどう動くか。歴史的に関わりの深い欧州連合(EU)も中東の平和構築には責任があろう。ともにノーベル平和賞に真に値する行動が求められる。

 その後押しも被爆国の責務である。なのに昨年のように、核兵器の非人道性を確認する各国共同声明への署名を政府が拒否する姿勢では、国際社会の信頼を損ねるばかりだ。

 廃絶へのリーダーシップでは被爆地の在り方も問われる。

 広島県はこの夏、ワールドピースコンサートを開く。広島市と役割分担しながら、世界平和への「発信」機能に磨きをかける。そんな契機にしよう。

 オバマ氏をはじめ各国首脳を招く取り組みにも再挑戦したい。為政者が被爆体験に耳を傾ける。それは核兵器がいかに人道に反するかを再確認するうえで、またとない機会になろう。

 福島第1原発事故を経て、私たちはあらためて「核と人類は共存できない」と思い知らされた。人類共通の認識にすることこそ、被爆国とヒロシマにとって最大の使命ではなかろうか。

(2013年1月7日朝刊掲載)

年別アーカイブ