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社説・コラム

社説 防衛大綱の見直し ほかにやるべきことが

 何を焦っているのだろう。安倍晋三政権が、長期的な防衛力整備指針である防衛計画大綱と、自衛隊の人員や装備を明示した中期防衛力整備計画(中期防)を年内に見直すという。

 約10年間という大綱の「賞味期限」が切れたわけではない。しかし自衛隊を大幅に増強しようとすれば邪魔になる。ならば、いっそ新しい中身に、というのが理由のようだ。

 軍備拡張を続ける中国をにらみ、「尖閣有事」に備えるためにも防衛力の充実が不可欠というのだろう。

 だとしても、勇み足にならないか。菅直人政権の2010年末に策定された現大綱も中国を強く意識した内容だ。むしろ中国からすれば、見直しを安倍政権の軍拡志向の一つと受け取るだろう。東アジアの緊張をいっそう高める懸念は拭えない。

 現大綱の内容とは―。それまでの「基盤的防衛力構想」に代わる新たな国防概念として、「動的防衛力」を導入したのが最大の特徴だ。

 一定の人員と装備で敵国の本土上陸を抑止するのが従来の考え方。これに対し、組織を多少スリムにしながらも不測の事態には機動的に対応しようというのが動的防衛力といえよう。

 課題に「島しょ部の防衛力強化」を挙げ、大綱として初めて中国の軍事動向を「地域・国際社会の懸念事項」と記した。アジアをにらむ姿勢は明白だ。

 一方、大綱に沿う中期防で自衛隊員の削減や防衛費の上限を明記した。確かに、米軍再編関連経費を除く防衛関係費は2002年前後の4兆9千億円台をピークに、12年度当初は4兆6千億円台へ年々減っている。

 これに反発してきた自民党内には既に先取りの動きがある。党の国防部会は、13年度予算で1200億円程度の上積みを求めることで一致したという。

 増額ありき、ではないか。アジアの安定を名目に応分の負担をする。その構えは、日米同盟の再強化に向けて訪米を計画する安倍首相にとって格好の手土産になろう。そんな勘繰りをしたくもなる。

 だが防衛費を単に膨らませる前に、やるべきこと、考えるべきことは多いはずだ。

 安倍首相は、自衛隊ではなく「国防軍」と呼びたいようだ。しかし既に軍隊に相当するほどに装備の拡充は進んできた。

 現在の中期防も5年間で、護衛艦3隻、潜水艦5隻の建造を計画している。さらに防衛省からは、最新鋭のステルス戦闘機F35に続き、垂直離着陸輸送機オスプレイを米国から輸入しようとの声も聞かれる。

 「専守防衛」から、とうに逸脱しているのではないか。現大綱の策定時にも疑問の声は相次いだが、国民的議論を経たとは思えない。

 防衛は日本外交の在り方と表裏一体でもある。中国をいたずらに刺激するよりも、習近平指導部の対日政策を見極め、腹を割って話せる関係づくりを優先すべきではないか。

 途上国を中心に平和貢献や民生向上支援は充実させたい。あるいは、東日本大震災でクローズアップされた自衛隊の救難・救護活動をもっと手厚くすべきだとの声もあろう。

 どうしても大綱を見直すというのならば、まずはこうした観点から議論してはどうか。

(2013年1月9日朝刊掲載)

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