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社説・コラム

社説 北方領土と首相訪露 この機に仕切り直しを

 安倍晋三首相は昨年暮れの就任後、ロシアのプーチン大統領と電話会談し、領土問題の本格交渉へ事務レベル協議を活発化させることで一致した。4~5月を軸に訪ロの日程調整中だ。

 両国の積年の懸案が解決する兆しとなるだろうか。仕切り直しの好機と捉えたい。

 旧ソ連は1945年の日本の敗戦当時、歯舞群島、色丹島、国後島、択捉島(北方領土)の4島を占領し、現在もロシアが実効支配している。このため、56年の国交回復以来、日本は「4島返還」を要求。51年のサンフランシスコ平和条約で放棄した千島列島の中に4島は含まれないというのが根拠である。

 しかし、断続的に窓口が開いた領土交渉も、ここ数年間表だった動きがない。

 ロシアは2010年以降、メドべージェフ首相が大統領時代と合わせて2回、国後島を訪問している。島の「ロシア化」の現実を見せつけ、日本国民に悪印象を残したといえよう。

 逆に日本側では09年に当時の麻生太郎首相が「ロシアによる不法占拠」と国会答弁し、民主党政権下でも首相や閣僚の発言がロシア側を硬化させる。日本の短期間の首相交代にも、ロシアはいらだちを募らせていた。

 しかし昨年5月、この問題の解決に意欲的だというプーチン氏が大統領に復帰。日本側も前回の首相時代にプーチン氏と会談した安倍氏が再登板した。安倍氏は「双方受け入れ可能な解決策を見いだすべく努力したい」と今回述べた。その意味を重く受け止めてほしい。

 むろん、懸案が一気に片付くわけではなかろう。だが、窓口が開いていれば率直にして柔軟なやりとりも可能だ。

 元外交官の東郷和彦氏は先日、92年にロシア側が「(両国の)平和条約前でも歯舞・色丹を返還し、国後・択捉の扱いは協議を続ける」と提案した事実をメディアに証言した。当時は4島返還の確約がなく日本側は拒否したものの、譲歩の一つの表れだったといえよう。

 一方、事実上の政府特使として2月に訪ロする森喜朗元首相は択捉を除く「3島返還論」をテレビ番組で示唆した。山本一太沖縄北方担当相は「4島の帰属という道筋があれば、段階論や時間的なスパンは柔軟に対応するということだ」と述べ、政府見解とのずれはないとする。

 今、国内で多様な議論が飛び交うことはよしとしたい。

 東西冷戦の終焉(しゅうえん)から20年余り。「北の脅威」だったソ連の崩壊により、国民の北方領土への関心も薄れつつある。「4島返還」が観念的なスローガンに陥ることこそ避けたい。

 ロシアの極東・東シベリア開発に日本の経済協力は欠かせない。日本にとってもロシアからの天然ガス調達はエネルギー政策の転換期に重要課題である。

 「海洋強国」を目指す中国や、長距離弾道ミサイル発射を強行して軍事的緊張をあおる北朝鮮への外交圧力も、ロシアには期待したいところだ。

 日ロ両国はまず、過去の交渉内容から歩み寄りができた事項を洗い出そう。それを基に具体的な解決プログラムを構築し、その間に経済協力は強める。その上で、日本はシベリア抑留など旧ソ連時代の不法行為に対し主張すべきは主張する。そんな関係を築けないか。

(2013年1月16日朝刊掲載)

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