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社説・コラム

天風録 「砂漠の半世紀」

 時間を費やしてでも人質の救出を。願いをよそに、アルジェリア政府はいきなり戦闘に踏み切った。卑劣なテロは断じて許せないとしても、ほかに策はなかったか。時計の針を巻き戻したくなる。武装グループの襲撃前へ▲いや、いっそ1960年へと。サハラ砂漠を支配したフランスは、まず大気圏で核実験を始めた。次いで地下で爆発させ、大量の放射性物質が漏れ出す事態に。オアシスに暮らす遊牧民に、目に見えぬ恐怖が襲いかかる▲フランスは長らく頬かむりを続けた。砂をかむ民の思いなど、お構いなしのように。そうして時計の針は現代へ。アルジェリアの隣国マリの北部で独立運動がわき起こる。最初に主導したのが、放射能を浴びた民と同じ部族だった▲割って入った過激派が勢力を広げると、軍事力をかさに着たフランスが空爆を仕掛け、今回の人質事件につながっていく。半世紀前の蛮行が巡り巡って悲劇を招いた。そういえるのかもしれない▲力による支配が民の心を硬くとがらせる。暴力が暴力を生む。犠牲になるのはいつの世も民だ。核時代の因果と座視するわけにはいかない。命を軽んじる歴史。止めるすべはないものか。

(2013年1月19日朝刊掲載)

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