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社説・コラム

天風録 「悲しみのプラント」

 地中に根を張り、水分や栄養をとって伸びる植物。英語のプラントにはもう一つ、設備の整った工場という意味がある。地下資源を吸い上げ、不毛な砂漠に息づく。石油や天然ガスの生産施設は植物の生命力と重なる▲アルジェリアの人質事件は、ついに日本からも帰らぬ人を出した。40年以上前からこの国に根づくプラント建設大手、日揮の社員。多くの国の専門家や労働者と、褐色の地平に築いた工場が、忌まわしいテロの舞台となった▲企業戦士―。安倍晋三首相は犠牲者をそう形容して悼んだ。駐在員はまた、砂漠の孤独とも闘っていたに違いない。遠い空の家族を胸に、汗する姿がしのばれる。事件発生から1週間、その家族の心労と絶望はいかばかりか▲世界に数少ないエネルギーフロンティア。国土の8割を占める砂漠はこの国の生命線でもある。開発を進めてきたのが日本の企業戦士だ。安全対策は徹底していたというが、惨事を避けられなかったのか▲アルジェリアは現場プラントの再開を急ぎたいようだ。砂に埋もれたり、枯れたりしては、犠牲となった人も無念だろうが、武装勢力の影は残る。卑劣なテロの根こそ枯れる日を願いたい。

(2013年1月23日朝刊掲載)

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