社説 オバマ政権2期目 「核なき世界」へ再挑戦を
13年1月23日
私たちの旅は終わらない―。オバマ米大統領が2期目の就任演説で繰り返した言葉である。難題の克服に向けて結束しようという国民への呼び掛けだ。
それは1期目にうたった「チェンジ(変革)」が道半ばであることの裏返しでもある。支持率が伸び悩む大統領にとっては向こう4年間、改革の達成度が問われ続けることになろう。
演説の注目点の一つは「繁栄は幅広い中間層の肩の上に築かれなければならない」と述べたことだ。一部の富裕層ではなく全体の底上げを通じて経済再生を図る方向はうなずける。
財政赤字の削減と景気回復とをどう両立させるか、手腕の発揮しどころでもある。日本をはじめ、同じ難題を共有する各国のお手本となれるだろうか。
演説では銃規制や温暖化対策の強化、移民制度改革、同性愛者の権利向上なども列挙した。国論を二分する問題にあえて切り込み、決意を内外に伝えた格好だ。
外交面では「他国との違いを平和的に解決する」と対話を重視する姿勢を示した。とはいえ全体として抽象的で、内政面に比べると物足りなさも募る。
国務長官には民主党重鎮でアジア通のジョン・ケリー氏、国防長官には野党共和党の元上院議員チャック・ヘーゲル氏と、党派を超えて「穏健派」を起用している。1期目に打ち出した「アジア太平洋重視」を具体化していこうというのだろう。
尖閣諸島をめぐり中国との緊張が続く日本にとっては、米国の対中外交の行方が気にかかる。人事を見る限りでは、硬軟両構えの駆け引きも交えながら中国とパイプを太くしようという構えにも読み取れよう。
大統領の指摘を待つまでもなく、力を誇示するだけでは国家間の諸課題の解決は難しい。とりわけ米国は財政事情から、国防費の削減は必至だ。
一方、アルジェリア人質事件は、世界がなお「テロとの戦い」に直面する現実を見せつけた。その意味でもオバマ政権が2014年末を目標とするアフガニスタンからの戦闘部隊の撤退がうまく運ぶかが鍵となる。
さらにイランや北朝鮮の核開発や、テロリストが核兵器を手にする危機にどう終止符を打つか。核超大国である米国の振る舞いが大きく左右しそうだ。
被爆地からすれば大統領にはいま一度、あのプラハ演説の精神に立ち戻ってもらいたい。
「核兵器を使った唯一の国の道義的責任として、核兵器のない世界を目指す」と言い切りながら、米国は包括的核実験禁止条約(CTBT)を批准しないばかりか、臨界前核実験を繰り返した。演説当時の輝きがすっかり色あせた感は否めない。
核なき世界は確かに遠い。これも残念なことに、米国が率先して動かなければ核軍縮さえも始まらないのが現実だ。道義的責任を忘れてもらっては困る。
背中を押すのが同盟国の役割であろう。米国の核抑止力に域内の平和を頼り続けるのではなく、むしろ核兵器のない北東アジアをどう創り出していくか。やはり米国の同盟国である韓国も交え、議論を深めたい。
原爆投下国のリーダーであるオバマ氏。2期目のうちに被爆地を訪れてはどうか。核兵器廃絶を目指す人類の旅にとって、それこそ大きな一歩となろう。
(2013年1月23日朝刊掲載)
それは1期目にうたった「チェンジ(変革)」が道半ばであることの裏返しでもある。支持率が伸び悩む大統領にとっては向こう4年間、改革の達成度が問われ続けることになろう。
演説の注目点の一つは「繁栄は幅広い中間層の肩の上に築かれなければならない」と述べたことだ。一部の富裕層ではなく全体の底上げを通じて経済再生を図る方向はうなずける。
財政赤字の削減と景気回復とをどう両立させるか、手腕の発揮しどころでもある。日本をはじめ、同じ難題を共有する各国のお手本となれるだろうか。
演説では銃規制や温暖化対策の強化、移民制度改革、同性愛者の権利向上なども列挙した。国論を二分する問題にあえて切り込み、決意を内外に伝えた格好だ。
外交面では「他国との違いを平和的に解決する」と対話を重視する姿勢を示した。とはいえ全体として抽象的で、内政面に比べると物足りなさも募る。
国務長官には民主党重鎮でアジア通のジョン・ケリー氏、国防長官には野党共和党の元上院議員チャック・ヘーゲル氏と、党派を超えて「穏健派」を起用している。1期目に打ち出した「アジア太平洋重視」を具体化していこうというのだろう。
尖閣諸島をめぐり中国との緊張が続く日本にとっては、米国の対中外交の行方が気にかかる。人事を見る限りでは、硬軟両構えの駆け引きも交えながら中国とパイプを太くしようという構えにも読み取れよう。
大統領の指摘を待つまでもなく、力を誇示するだけでは国家間の諸課題の解決は難しい。とりわけ米国は財政事情から、国防費の削減は必至だ。
一方、アルジェリア人質事件は、世界がなお「テロとの戦い」に直面する現実を見せつけた。その意味でもオバマ政権が2014年末を目標とするアフガニスタンからの戦闘部隊の撤退がうまく運ぶかが鍵となる。
さらにイランや北朝鮮の核開発や、テロリストが核兵器を手にする危機にどう終止符を打つか。核超大国である米国の振る舞いが大きく左右しそうだ。
被爆地からすれば大統領にはいま一度、あのプラハ演説の精神に立ち戻ってもらいたい。
「核兵器を使った唯一の国の道義的責任として、核兵器のない世界を目指す」と言い切りながら、米国は包括的核実験禁止条約(CTBT)を批准しないばかりか、臨界前核実験を繰り返した。演説当時の輝きがすっかり色あせた感は否めない。
核なき世界は確かに遠い。これも残念なことに、米国が率先して動かなければ核軍縮さえも始まらないのが現実だ。道義的責任を忘れてもらっては困る。
背中を押すのが同盟国の役割であろう。米国の核抑止力に域内の平和を頼り続けるのではなく、むしろ核兵器のない北東アジアをどう創り出していくか。やはり米国の同盟国である韓国も交え、議論を深めたい。
原爆投下国のリーダーであるオバマ氏。2期目のうちに被爆地を訪れてはどうか。核兵器廃絶を目指す人類の旅にとって、それこそ大きな一歩となろう。
(2013年1月23日朝刊掲載)