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社説・コラム

社説 安倍首相の所信表明 語らないこと多すぎる

 政権交代後、初となる通常国会がきのう召集され、安倍晋三首相が所信を表明した。最大かつ喫緊の課題と位置づけたのは、経済の再生だ。

 日銀との緊密な連携、大胆な金融政策を通じて「強い経済を取り戻す」と宣言した。民主党政権との違いを鮮明に打ち出そうとする意気込みが伝わる。

 加えて「震災復興」「外交・安全保障の立て直し」を柱に掲げた。与野党が一体となって取り組むべき課題であることは言うまでもない。着実に成果が出せるよう、国会での前向きな議論を求めたい。

 安倍内閣発足から1カ月。経済対策に力点を置いたロケットスタートは、これらの決意の表れともいえるだろう。20兆円超の緊急経済対策が閣議決定され、新たに物価上昇率2%の目標が導入された。

 経済の再生に国民の期待は高まっているのだろうか。共同通信社の世論調査によると内閣支持率は66・7%。発足時よりも4・7ポイント上昇している。スピード感のある政治は、国民にインパクトを与えたかもしれない。

 所信表明演説は政権の意思表示であり、国会論議の要といえる。この演説を基に、各党の代表質問が行われるからだ。

 それだけに安倍首相にはもっと語ってほしかった。とりわけ原発政策や環太平洋連携協定(TPP)交渉参加の是非について、ひと言も語られなかったことに違和感を覚える。

 原発再稼働の可否や再生可能エネルギーの在り方も含め、原発政策はあいまいなままだ。国民の関心事だけに、首相はしっかりと説明する必要がある。

 TPP問題をめぐっては自民党内でも意見の相違がある。だからこそ十分な議論を求めたい。夏の参院選に向け、有権者が1票を投じる指標にもなる。

 消費増税も、導入を前提とした与党税制改正大綱が決まったばかりだ。本来なら一体であるはずの社会保障改革の行方について、首相は国民に語り掛けるべきではなかったか。そんな誠実さこそ、政権に安定をもたらす鍵になろう。

 尖閣問題で揺れる対中関係も、どう立て直すのか具体性に乏しい。憲法改正や集団的自衛権行使容認といった保守色の強い「安倍カラー」は封印した格好だ。2006年、初めて首相に就任し、「美しい国」を目指すと繰り返した所信表明演説とは対照的である。

 丁寧な対話が必要との考えから、あえて今回は持ち出さないのかもしれない。ただ参院選を見据えた「期間限定」の安全運転でないことを願いたい。

 政策の大転換期でもあるだけに、チェック機能を果たす野党も力が試される。

 とりわけ、最大野党の民主党は大敗のショックからいまだ抜け出せず、通常国会にどう臨むか姿勢が見えてこない。与党時代に築いた政策のレールを安倍政権によって次々とはがされようが、かみつくような反論も聞こえない。それでは民主党政権の3年間は何だったのかと、国民を失望させるばかりだ。

 所信表明に対し、民主党の細野豪志幹事長は「あまりの無内容さに、驚きを通り越して強い危機感を感じた」と断じている。そこまで言うのなら、しっかりと問題点を指摘する自らの姿勢が問われよう。

(2013年1月29日朝刊掲載)

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