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社説・コラム

天風録 「遺訓の変節」

 久しぶりの開放感に心が浮き立つ。きのう、ぽかぽかの日差しが列島から寒気を吹き飛ばした。広島市内のあちこちでも重いコートを脱ぎ、散策を楽しむ姿が見受けられた。きょうは季節を分け、春を手繰り寄せる節分▲厄よけの豆やイワシとともに、最近では巻きずしを用意する家庭が多いことだろう。かぶりつく方角、すなわち今年の恵方は南南東だとか。でも、背筋がひんやりする気が。ほぼ真反対の北西から、嫌なニュースが連日届く。北朝鮮が核実験を準備していると▲「核と長距離ミサイル、生物化学兵器を十分に保有することが朝鮮半島の平和を維持する道だ」。若き指導者の亡父が生前、言い残したという。隣の韓国政府が先月、遺訓の全文を入手したそうだ▲ちょっと待ったと言いたくなる。祖父の遺訓は真逆だったとされるから。いわく「朝鮮半島を非核化する」。父がしでかした2度の核実験で既に、ほご同然ではあろう。とはいえ祖父の存在がこの国では最も重かったはずだ▲節分ならぬ変節だと国際社会が批判しようが、憤りの豆をまこうが、まるでどこ吹く風のよう。春のあまりの遠さを嘆くしかないのか。体が震える。心は沈む。

(2013年2月3日朝刊掲載)

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