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社説・コラム

社説 原子力規制庁の漏えい 癒着を断ったはずでは

 生まれ変わったはずではなかったのか。原子力規制庁の幹部職員と原子力事業者との癒着が明るみに出た。発足から4カ月余り、早くも期待を裏切られた感は否めない。

 日本原子力発電敦賀原発(福井県)の断層調査をめぐり、1人の幹部職員が内部の調査報告書案を公表前に、日本原電側に渡していたという。

 原子炉建屋の直下を走る断層は活断層か―。両者の見解はぶつかり合っている。会合前に反論を練りたい日本原電が情報提供を求め、この幹部は応じたようだ。「3・11」の教訓をもう忘れたのだろうか。

 福島の原発事故で明白になったのは、原発の安全性を監視する立場にある国の機関が機能不全に陥っていたことだ。原子力安全・保安院は原発を推進する経済産業省の下に置かれ、業界との「もたれ合い」でチェック機能がまひした。使命も見失っていたといえよう。

 反省を踏まえ、政府からの独立性が高い「三条委員会」として設けられたのが原子力規制委だ。規制庁はその事務局である。外圧に左右されないスタンスこそが、この組織の生命線であることは言うまでもない。

 規制委の田中俊一委員長も、事業者と距離を保つ必要性を強調してきた。規制庁の内規にも姿勢はうかがえる。職員は2人以上で事業者と会い、話した内容についてはホームページで公開するとしている。

 だが、この幹部は5回にわたり、1人で日本原電の常務らと面会していた。

 規制庁は幹部を訓告処分としたが、あくまでも本人の不始末としている。組織の存在意義に関わる大失態だというのに、まるで人ごとではないか。謝罪の言葉もなく、事態を矮小(わいしょう)化しているようにも見える。これでは国民の信頼を取り戻せるはずがない。  発足当初から懸念されていたことではあった。約450人体制の規制庁。当面は保安院の出身者が中心とならざるを得ないからだ。看板を掛け替えただけでは体質は変わるまい。今回の漏えいを「氷山の一角ではないか」と指摘する声もある。

 国民の疑念を拭い去るためにも、規制委はもっと危機感を募らせるべきである。再発防止策を急ぎ、根元から癒着を断ち切る決意を示してもらいたい。

 内規の見直しも必要だろう。例外を許さない徹底したルール作りが求められる。人事面での抜本的な改革も欠かせまい。

 「原子力ムラ」の利害に染まらない人材をいかに確保するか―。福島の廃炉を間違いなく進めるためにも一層の科学的見地や技術力が必要となる。ムラ以外の民間から積極登用すべきだ。人材養成には大学教育との連携も促進してはどうだろう。

 規制委は、原発敷地内の断層調査を進めている。7月までに原発の新たな安全基準も整備しなければならない。

 さらに今後は原発再稼働の是非をめぐり政府や電力事業者との折衝も増えよう。いまこそ全職員が「人と環境を守り抜く」との使命を再認識してほしい。

 思い返せば、規制委を三条委員会にすべきだと主張したのは野党時代の自民党である。その指摘は当然だった。政権を担ういま、規制委の足腰をさらに強める知恵が問われよう。

(2013年2月3日朝刊掲載)

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