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社説・コラム

社説 首相の沖縄知事会談 信頼回復 負担軽減から

 安倍晋三首相はおととい、今の内閣発足後初めて沖縄県を訪問し、仲井真弘多(なかいま・ひろかず)知事と会談した。懸案の米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)について「固定化はあってはならない」と述べつつ、辺野古(名護市)移設には理解を求めた。

 首相は今月下旬の訪米を控え、普天間移設に取り組む姿勢を米側にアピールする必要に迫られている。まずはスタートラインに立ったというところか。「固定化はあってはならない」とは、県民には言わずもがなだろう。問題は移設先だ。

 オバマ米大統領に対し、真に沖縄県民の思いをくんだ毅然(きぜん)たる姿勢を示せるかどうか。そこを見極めるまで、県民の国に対する不信感はちょっとやそっとでは拭えないだろう。

 「(民主党政権の)3年の間に失われた国と沖縄県との信頼関係を再構築することから始めたい」という発言もあった。まさにその通りである。

 安倍政権のこの間の対応は用意周到だ。「官邸主導」で関係閣僚が緻密な動きを見せた。2013年度予算案では内閣府の沖縄振興予算は満額認められ、中でも那覇空港第2滑走路整備事業費の大幅増額には、知事も「さすが首相の一声だ」と会談の場を和ませた。

 信頼関係回復への一つの材料とはいえよう。知事は年初、「県政は与党と軌を一にするのが基本だ」とのスタンスを地元紙の取材に示している。

 ただし、政権が沖縄振興策をあからさまに基地問題と絡めたなら、県民から「時代遅れのアメとムチ」と酷評されても仕方がない。基地問題は基地問題として解決するしかない。

 安倍政権は年明け、普天間飛行場の県内移設に向けて辺野古の埋め立て申請を検討していたが、会談では見送りの方針が明らかになった。

 当然だろう。米海兵隊仕様の輸送機オスプレイの配備問題や相次ぐ米兵犯罪で反米感情は高まっている。しかも米国は最近、空軍仕様のオスプレイの配備の可能性にも言及している。小野寺五典防衛相が「沖縄の皆さんの気持ちを考えれば、このような話がでること自体、いかがなものか」と述べたほどだ。

 地元の理解が得られないまま埋め立て申請に踏み切っても、円滑に進まないことは火を見るよりも明らかだ。少なくとも、オスプレイ増強と米兵犯罪についてはオバマ氏に強くもの申すつもりだと、首相は知事に明言すべきではなかったか。

 会談で首相は「沖縄の基地負担軽減」を唱える一方、日米合意に沿って辺野古移設に理解を求めた。だが、辺野古移設自体が無理筋である、と考える県民の声は聞こえただろうか。与党の自公両党も沖縄の県組織は「県外移設」で一致している。

 首相は先島諸島での自衛隊の対応能力向上に取り組む姿勢も示している。これも沖縄戦をめぐる県民感情からすれば異論が出よう。知事は同じ取材で「日中間の緊張を緩める外交の努力を徹底してやってもらいたい」と安倍政権に注文している。ここにもズレがある。

 首相は基地負担軽減へ、一歩でも前へ進める戦略と気概を見せるしかないだろう。沖縄の政策については蓄積のある自民党が、民主党の轍(てつ)を踏むことはないとは思うが。

(2013年2月4日朝刊掲載)

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