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社説・コラム

『記者縦横』 訓練、原発稼働の判断に

■松江支局 樋口浩二

 中国電力島根原子力発電所(松江市鹿島町)の事故を想定し島根県が鳥取県、原発30キロ圏の両県6市と1月26日に実施した原子力防災訓練を取材した。「本当に避難なんてできるのか」。福島第1原発事故後、何度も聞いた市民の不安に納得せずにはいられなかった。

 災害弱者となる社会福祉施設の入所者の避難をみても明らかだ。原発から5・5キロの松江市の施設では、入所者のうち約20人をロビーに誘導。車いすを押されてお年寄りが集まったが「健康に配慮」し、入所者の訓練はここで終わった。

 避難中に犠牲者が出た福島の事故を思えばこの先が問題だ。施設が持つ車両は4台6人分で、全入所者約50人の避難には追加の調達が不可欠。だが市や県、国による議論は始まってすらいない。

 訓練5日後の防災担当者の検証会議でも、課題を挙げる声が相次いだ。国の原子力災害対策重点区域の拡大で、初めて住民避難計画の策定を迫られた出雲、雲南、安来市が特に懸念を訴えた。専門職員や防災機材の不足が背景にある。

 島根原発は全国で唯一、県庁所在地に立地する。30キロ圏内の人口46万9千人は全国で3番目に多い。

 全国で初めて県外の避難先を示した県の調整作業は相当な労力だったはず。だが、多くの住民が抱える不安から目を背けてはならない。訓練で浮き彫りになった課題を、今後問われる原発稼働の是非をめぐる判断の材料としてほしい。

(2013年2月4日朝刊掲載)

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