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社説・コラム

社説 中国艦のレーダー照射 あまりに危険な挑発だ

 武力攻撃の準備とみなされてもおかしくない。沖縄・尖閣諸島沖で中国艦が海上自衛隊の護衛艦に向け、射撃管制用レーダーを照射していた。

 あまりにも危険な挑発行為である。日中関係を大きく損なう事態と言わざるを得ない。中国側の自制を強く求めたい。

 一触即発の軍事衝突は何としても避けなければならない。一線を越えた中国側の挑発に乗らず、現場の対処で事なきを得たのは賢明だった。

 小野寺五典防衛相が公表に踏み切ったのは再発防止も考えてのことだろう。非を鳴らされるべきは中国だとしても、両国の艦船同士が接近した場合のルールなど危機管理の態勢づくりを急ぐ必要がある。

 中国外務省は海軍の単独行動とも受け取れる発言をしているが、共産党の習近平総書記の指示に基づくものではなかったのかどうか。日本側の抗議に「まず事実を確認したい」との回答にとどまっている。

 習指導部の顔触れは、3月の全国人民代表大会で最終的に固まる。対日姿勢がまだ見えてこないのは「強硬派」と「慎重派」との権力争いが収まっていない証しとの見方がある。

 党内事情を映し、軍も巻き込んだ駆け引きが今回の事態にもつながったとすれば政権の安定度は乏しい。軍の統制の上でも極めて危なっかしい。一連の検証が欠かせない。

 日本側は自公政権に代わり、最優先の課題は経済再生と打ち出した。外交関係は依然、これから仕切り直そうかという段階にとどまっている。

 中国に対しても関係修復に向け、1月下旬に公明党の山口那津男代表が訪中。会談には習総書記自らが応じ、安倍晋三首相からの親書も受け取っていた。

 レーダー照射は、その5日後のことだ。せっかく対話の兆しが見え、さてこれからという段になぜ自ら冷や水を浴びせるのだろう。理解に苦しむ。

 考えられるのは、尖閣をめぐって中国へのけん制を続ける米国へのいら立ちだろう。

 先月の日米外相会談後、当時のクリントン国務長官が会見で「日本の施政権を一方的に害そうとする、いかなる行為にも反対する」と踏み込み、中国にくぎを刺した。その同じ日、やはり中国艦から海自ヘリにレーダー照射したと疑われる事案も今回明らかになっている。

 しかし日米中は今、3度目の核実験をちらつかせる北朝鮮に再考を迫っている。緊密な連携が欠かせないはずだ。

 国連安全保障理事会は先月、北朝鮮の「人工衛星」打ち上げを事実上のミサイル発射だとして制裁強化の決議を全会一致で採択した。中国が渋々、同調したのも東アジアの安定を考えてのことではなかったか。

 安倍首相はきのうの国会答弁で、中国とは「戦略的互恵関係」と強調した。ただ、その具体的な中身はおぼろげだ。何より今は政治対話が再開しなければ、戦略も互恵も描けまい。

 その点、習総書記は山口代表と会談した際、「対話と協議で解決する努力が重要だ」と日中首脳会談に前向きなシグナルをよこしている。

 威嚇からは何の益も生まれないことは歴史が教えている。両国とも冷静さを忘れず、対話ムードを高めていくべきだ。

(2013年2月7日朝刊掲載)

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