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社説・コラム

『論』 武器取引規制の行方 「バナナより甘い」では

■論説委員 金崎由美

 日本人駐在員ら多数が犠牲となったアルジェリア人質事件。現地の映像から、テロ組織の重武装に驚かされた。

 機関銃から迫撃砲、ロケットランチャーまで。カダフィ政権が崩壊したリビアから、混乱に乗じて相当数の武器が流入しているのだという。

 世界に目を移せば、毎年推定で50万人以上が紛争や事件で武器により命を奪われている。武器の流入が紛争を助長し、生き延びた市民も難民となる。アフリカなどで少年兵を生む温床にもなっている。

 人道上の深刻な問題である。核兵器廃絶を訴える広島でも、これを機に通常兵器への関心をさらに高めたい。国境をまたぎ、テロ組織はむろん国民を弾圧する国家に渡らないための方策が必要だ。

 ところが銃や爆弾、戦車といった通常兵器をカバーし、法的拘束力を伴った国際的な取引ルールはないに等しい。「貿易規制がバナナより甘い」ともいわれる。

 そこで国際非政府組織(NGO)などが制定運動を主導し、国連交渉に至ったのが武器貿易条約(ATT)だ。その行方が今、注目されている。昨年7月の交渉が決裂し、仕切り直しとなる事実上の最終交渉が来月18日、始まる。

 静岡市で先週あった国連軍縮会議でも核兵器問題と並びATTが議題だった。こちらは国連アジア太平洋平和軍縮センターが主催の国際会議。各国の外交筋や専門家、報道関係者が意見を交わした。

 制定の必要性を訴える意見が相次ぐ一方、「最終交渉がさらなる妥協の場となりかねない」などの懸念も漏れた。

 ATT交渉を難しくしているのが全会一致の採択ルールという。推進派が圧倒的多数ではあっても最終交渉の行方は予断を許さない。これを踏まえオーストラリア外務省の担当次官補は「各国がどれだけ前向きな態度を見せるかにかかっている」と強調した。

 昨年7月の交渉では、イラン、エジプト、北朝鮮などが条約に強く反対。世界の武器輸出額の4割を占める米国が要となる弾薬の規制強化に抵抗した。規制対象とする武器の定義なども、あいまいになっていった。それでも最終日、米国が条約案の採決に待ったをかけ交渉は決裂した。

 全会一致を達成すれば、それだけ多くの国の条約参加が見込める。だが内容が抜け道だらけでは意味がない。結局は交渉が再び決裂し、国連総会に持ち込まれて多数決で決めることになるだろう、との見通しも聞かれる。ジレンマゆえ、推進国も一枚岩ではない。ノルウェーなどは強い規制を主張するが、日本は妥協的と見られている。

 ATTの意義について、実感しにくい面があるかもしれない。しかし国連軍縮会議に出席したジョージタウン大平和・安全保障研究センターのゴールドリング上席研究員は「武器の多くは合法的に取引された後、第三者や第三国へと渡り不正使用される」と指摘する。スポーツ銃や猟銃、銃部品の輸出国である日本にも人ごとではない。

 政府は武器輸出三原則を緩和し、次期戦闘機F35の部品輸出の容認を決めた。日本発の技術や部品が回り回って紛争に使われないよう、何らかの歯止めが必要だろう。

 国際NGOなどは、ATTの文案がすでに妥協の産物と化したと批判している。誠実な交渉や強い規制を各国に迫るため、市民の役割がさらに重要になるのは間違いない。

 広島も一肌脱ぐ手だてはないか。平和市長会議の活動や被爆体験証言などを通して、国際的な連携の経験は豊富だ。通常兵器の問題も踏まえた世界恒久平和の訴えを模索すべきときだ。

(2013年2月7日朝刊掲載)

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