×

社説・コラム

社説 原発の新安全基準 対策に「猶予」ありえぬ

 原子力規制委員会がまとめた原発の新安全基準の骨子案に対し、パブリックコメントの受け付けが始まった。今月末まで国民の意見を聞いた上で、4月には基準案をまとめる予定だ。7月に策定することが法律で決まっている。

 タイムスケジュールに沿って新基準を策定し、電力会社がクリアすれば再稼働申請への道が開ける。審査が順調に進めば年内にも、四国電力伊方原発(愛媛県)などいくつかの原発が再稼働できる-。そんな期待が電力業界にはあるようだ。「原発復権」への環境が、着々と整いつつあるとの見方もできよう。

 それだけに意見公募が、単なる「手続き」に終わってはならない。規制委は多様な意見を議論に反映させ、国民の不安を一つずつ消していく努力と誠意を尽くすべきだ。

 新たな安全基準は、「過酷事故対策」を柱の一つに掲げる。想定を上回る自然災害や航空機によるテロ攻撃などがあっても、炉心の損傷や格納容器の破損を防げる内容という。

 放射性物質をフィルターで取り除いて排気する設備や、原子炉の制御室が壊れても遠くから原子炉を冷やせる第2制御室の新設などを盛り込んだ。

 もう一つの柱は「地震・津波対策」だ。原発ごとに最大の津波を想定し、それを上回る高さの防潮堤の整備を求めている。

 確かに福島第1原発事故の教訓を踏まえているのだろう。だが必要な条件にすぎない。これであらゆる危機に対応できるのか十分に協議する必要がある。

 厳しい基準をつくっても守られなければ意味がない。ところが規制委は一部の安全設備について「猶予期間」を設ける方針という。

 基準を満たすには、相当な時間を要するだろう。一刻も早く再稼働させたい電力会社の希望に沿うかのような例外措置といえる。「抜け道」といわれても仕方あるまい。

 電力会社は火力発電用燃料のコスト高にあえぐ。そうした状況を背景に、電気料金を値上げしようとする動きが相次いでいる。再稼働すれば消費者の負担も減るとアピールする向きもあるようだ。だが最も重視すべきなのは安全性である。目先の経済性だけで再稼働の是非を語るべきではない。

 原発という「器」の安全基準はもとより、一般市民からすれば「いかに身を守り、逃げるか」も重要なテーマだ。だが規制委が示す原子力災害対策指針の改定案は、具体性が乏しい。

 例えば甲状腺被曝(ひばく)を予防するヨウ素の取り扱いだ。半径5キロ圏内の家庭にヨウ素を事前配布するという。適切な服用方法や保管の在り方など、周知徹底させるにはどうすればいいのだろうか。

 防災計画を練らなければならない自治体は困惑する。1月下旬、島根県などが実施した避難訓練でも、課題が浮かび上がったようだ。災害弱者の移動手段は、誘導する人や防災機材の確保は―。「本当に避難なんかできるのか」。原発のそばで暮らす多くの人の思いだろう。

 防災計画は3月18日までに策定しなければならない。こちらも原発の安全基準と同様、期限が決まっている。議論が生煮えの状態で、再稼働への歩を進めてはなるまい。

(2013年2月8日朝刊掲載)

年別アーカイブ