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社説・コラム

『潮流』 真実が届く日

■平和メディアセンター編集部長 宮崎智三

 そこまでするか―。国際社会からの孤立を恐れず、おととい北朝鮮が3度目の核実験を強行した。ニュースを聞いて、かつて面食らった記憶がよみがえった。

 大学生だった30年ほど前のこと。家庭教師をしていた朝鮮学校の生徒から、学校で使っていた英語の教科書を見せてもらった。

 米国の現状を紹介していた。繁栄しているように見えるけれど、実際には貧乏な人も多く、あまたの問題を抱えている社会なのだと。そんな内容の英文が続いていた。

 北朝鮮が、朝鮮戦争で激しく戦った米国を悪く言うのも無理はないのだろう。それに、まるっきり見当外れで一方的な分析とも言い切れまい。

 それでも、文面からあふれる悪意と資本主義攻撃の徹底ぶりは、どぎつく、薄気味の悪さも感じた。

 教えていた高校生に感想を尋ねようと思いつつ、果たせぬまま家庭教師の仕事は終わった。

 もっとも、70年ほど前の日本も似たような状況だったに違いない。祖父母や父母たちは国を挙げた教育を受け、「鬼畜米英」とすり込まれた。

 うそも100回繰り返せば真実となる。そんな不遜な発想が背景に見え隠れしているように思う。

 ただ、うそが長続きすることはない。

 ソウル五輪を妨害するため、飛行機に爆弾を仕掛けた1987年の大韓航空機爆破事件。「韓国は物乞いがあふれていると教育されてきたが、北朝鮮当局にだまされていたと悟った」。逮捕されて韓国の実情を知った実行犯の金賢姫(キムヒョンヒ)元工作員は、後にそんな言葉を残している。

 「鬼畜米英」の教えが真実だったのか、祖父母や父母たちの目に明らかになる日は、あの戦争終結とともに訪れた。そんな日が北朝鮮に来るのは、いつになるのだろう。

(2013年2月14日朝刊掲載)

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