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社説・コラム

社説 日本版NSC 問題意識 理解できるが

 危機管理を重視する内閣の姿勢をアピールする狙いがあるのは確かだろう。安倍晋三首相が日本版「国家安全保障会議(NSC)」の創設に動きだした。

 外交や安全保障、危機管理の司令塔となるNSC創設に向けた有識者会議がきのう、初会合を開いた。「政治の強力なリーダーシップを発揮したい」と語った首相からは思い入れの強さが感じられる。

 政府は、会議がまとめる報告書を基に、関連法案を早ければ今国会に提出するという。前回の安倍政権も法案を出したが、退陣で廃案を余儀なくされた経緯がある。

 首相が検討を急ぐよう指示したのは、日本人10人が犠牲になったアルジェリア人質事件がきっかけ。危機管理の体制は今のままでよいのかという問題意識は理解できる。

 どうすれば国民の安全を守る体制を構築できるのか。政府と国会は形ばかりにならないよう十分に議論する必要がある。

 外交・安全保障政策については、政府が総合的な政策を打ち出せないと長年、指摘されてきた。外務省と防衛省の「縦割り」が主な要因だろう。

 そうした体制は危機管理にも障害になっている。各省庁が個別に首相へ報告したり、情報を抱え込んだりしていては、迅速な意思決定は難しかろう。

 政府が手本にしようとしているのが米国のNSCである。大統領への助言と政策の調整、危機管理が主な役割だ。

 法律が定めるメンバーは正副大統領、国防、国務両長官。加わる他のメンバーは政権ごとに変わるという。70年近い歴史があり、スタッフは約200人にのぼる。

 日本版NSCはどのような体制になるのか。前回の安倍政権が提出した法案の内容がたたき台になるだろう。

 首相、外相、防衛相、官房長官の4閣僚が常設メンバーとなり、NSC担当の首相補佐官を新設する。内閣官房に事務局を設け、10~20人程度の専門スタッフを置くとしている。米国と比べると体制は心もとない。

 NSCを創設する場合、いくつか解決しなければならない課題があろう。まず外務省、防衛省と役割をどう分担するかだ。現時点では見えてこない。

 既存の両省をそのままにして、NSCを創設したのでは、屋上屋を架すことになりかねない。それぞれの役割をあらためて定め直すことが不可欠だ。

 さらに、NSCという新たな組織をつくっただけで、縦割りの各省庁から円滑に情報を収集できるかは疑問であると言わざるを得ない。重要な情報をどれだけ早く吸い上げられるかは、具体的な制度設計に懸かっているだろう。

 危機管理の面では、東日本大震災や原発事故への対応を教訓にしなければなるまい。政府の体制が不十分だったのは明らかだ。NSCには、大災害時の迅速な対応が期待されよう。

 だが想定される常設メンバーを見ると、外交・安全保障は重くみていても、国内の災害や事件にどれだけ対応できるのかは不透明である。警察や消防との連携が欠かせまい。

 今回の制度設計では、災害時の危機管理をどうするかという視点を最大限取り入れてもらいたい。

  (2013年2月16日朝刊掲載)

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