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社説・コラム

天風録 「と」の力

 本紙島根版の新連載「過疎と生きる」にもう一つ、タイトル候補があったと聞く。過疎に生きる―。1字違いの「に」の方には意を決し、この道を行く強さがのぞく。半面、脇からの口出しは許さぬふうの気配も漂う▲その点、「とともに」をつづめた「と」の方が心安い。なにせ過疎の難儀が行政の目に留まって、かれこれ半世紀近い。今更がっぷり四つに組んでかかるのは気が引けよう。いなし、手なずける懐の深さが「と」にはある▲復興いまだし、の感が強い福島では「に」以外は考えられないのかもしれない。警察官とその家族の震災手記集を編んだ福島県警は「ふくしまに生きる」と銘打っている。なるほど、こちらは「と」では他人行儀が過ぎる▲中原中也賞の詩人和合亮一さんも「決意」という作品にこんな2行を挟んでいる。「福島に生きる/福島を生きる」。この地を去るな、捨てるなと叫んでいるのではない。どこにいても古里を心から離さぬ宣言と読みたい▲福島と広島、宮城や岩手と私…。「と」の1字でつないでみる。そのことで風化にあらがって、被災地の外でできることを探す。3・11から程なく2年。「と」が、懸け橋にも見えてくる。

(2013年2月21日朝刊掲載)

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