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社説・コラム

天風録 「うすらい」

 朝、出がけに氷を踏んだ。三寒四温という。まだしばらくは、冷えてはぬるむを繰り返すのだろう。「薄氷(うすらい)の草を離るる汀(みぎわ)かな」(虚子)。うすらい、という語感の、やわらかなこと。春の訪れを告げる吉祥にも受けとれる▲いてついた国と国の対立を緩めてくれるかもしれない。熱い抱擁を見て、淡い期待を抱いた。五輪でのレスリング存続に向け結束した米国とイラン。国交を断ち、唾を飛ばして非難し合う政治家をよそに、共通の目標を見据える▲屈強な者同士が手を握るのだから、いっそう頼もしい。こちらも同じだろうか。北方領土問題をめぐり、柔道の心得あるロシア大統領と、ラガーマンだった元首相が再会した。打ち解けたという。薄明かりが差す日を待ちたい▲虚心坦懐(たんかい)に宿敵とも組み合えるのがスポーツの力だろう。先日亡くなった中国卓球選手、荘則棟さんの「ピンポン外交」もそうだった。40年ほど前、名古屋の大会で米国選手と交流した。両国の関係正常化に道を開いていく▲フェアプレーの精神を胸に、アスリートは全力をかける。その熱気がやがて国を動かし、氷を解かすに違いない。薄氷(はくひょう)を踏む、危なっかしい関係はもう要らぬ。

(2013年2月23日朝刊掲載)

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