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社説・コラム

社説 日米首脳会談 保障ないTPPの例外

 会談の焦点だった環太平洋連携協定(TPP)については、安倍晋三首相が思い描いた筋書き通りになったといえよう。

 首相はオバマ米大統領と初めて会談した後、TPPは聖域なき関税撤廃が前提ではないことが明確になったと強調した。早期に交渉参加を表明したい考えのようだ。

 ただ首脳会談後に両政府が発表した共同声明によると、関税撤廃の例外、いわゆる聖域が保障されたわけではない。影響が懸念されている農業や医療の分野を例外にできるかは不透明なままだ。

 首相はそうした状況を丁寧に説明する必要がある。交渉参加を決断する前に国内での議論を尽くさなければならない。

 共同声明には、あらゆる物品が交渉の対象と明記されている。その一方で全ての関税撤廃をあらかじめ約束することを求めるものではない、との表現が盛り込まれた。聖域はあり得ると読み取れるが、とどのつまり交渉してみなければ分からないということだ。

 自民党は昨年12月の衆院選で、聖域なき関税撤廃を前提にする限り交渉参加に反対すると公約していた。首相はオバマ大統領との会談を受け、環境は整ったと考えているのだろう。

 しかし関税撤廃に例外を設けられるかは交渉次第という点では、これまでと事態が大きく変わったとはいえない。自民党内でも交渉参加に反対する意見は根強く、すんなりとまとまるかは疑問である。

 気になるのは、TPPが経済だけではなく、安全保障の面から語られていることだ。尖閣諸島をめぐる中国との対立が激しくなる中、米国が主導するTPPには参加した方がよいとの首相の思惑もあろう。だが日米関係を強化するためなら農業や医療への影響はやむを得ないということにはならない。

 政府は近くTPPに参加した場合の農業や製造業への影響について統一的な試算をまとめ、公表する方針だ。国会などで試算を精査するとともに、参加のメリット、デメリットをきちんと議論する必要がある。

 議論の結果、首相が交渉参加を決断したとしても、日本が求める例外が認められないケースは十分に考えられる。そのときはTPP自体への参加は見送るという選択肢も残しておかなければならない。

 首脳会談で合意しても国内での議論が欠かせないのは、TPPばかりではない。沖縄県の米軍普天間飛行場については、県内移設を早期に進展させる方針で一致したという。沖縄県の仲井真弘多知事や自民、公明両党の県組織は県外への移設を強く求めており、県内移設の実現は難しかろう。一から仕切り直すしかないのではないか。

 首相は首脳会談で2030年代に原発稼働ゼロを目指す民主党政権時の方針を見直す意向も伝えた。日本の原発維持を求める米国に配慮したのだろう。だが多くの国民が脱原発を望んでいる状況に変わりはない。首相には脱原発への道筋こそ示してもらいたい。

 「日米同盟の信頼、強い絆は完全に復活した」と首相は語ったが、単なる米国への追随であってはなるまい。両国の立場を尊重した上で関係の強化を目指すべきだろう。

(2013年2月24日朝刊掲載)

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