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社説・コラム

『記者縦横』 ドームの将来 頭を巡る

■報道部 加納亜弥

 世界遺産・原爆ドーム(広島市中区)の5階部分から、平和記念公園や元安川を一望したことがある。2004年の台風18号で窓台を保護する鉛の板がめくれ、修繕作業を取材した時だ。初めて内部に入り、漫画「はだしのゲン」の一こまを体験した気分になった。

 風雨にさらされてきたドーム。震度5弱以上の地震で、壁など4カ所に変形を引き起こす負荷が集中することが市のシミュレーション調査で分かった。

 01年の芸予地震(震度5弱)で被害がなかったことから、市は「致命的な損傷は考えにくい」と判断。今後、壁の一部をくりぬいて詳しく調査する。人間ドックに例えるなら「再検査」だろう。いつまで今の状態を残せるのか。ドームの「寿命」をあらためて意識させられた。

 広島大大学院の三浦正幸教授(文化財学)は「物理的な崩壊は止められない」と言う。根本的な耐震補強工事には「外観が大幅に変わる。被爆者の墓標ともいえるドームの尊厳と意義を傷つけるのでは」と懐疑的だ。

 市も「経年劣化はやむを得ない」と、被爆100年の45年まで大規模改修を避ける方針でいる。

 やがて被爆者はいなくなる。被爆100年から先、原爆被害の証人であるドームをどんな姿で次代に引き継ぐべきか。今から考えても早すぎはしない。

 駆け出しだったあの日、ドームの5階で覚えた感動。それが今、焦りに変わりつつある。

(2013年2月25日朝刊掲載)

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