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社説・コラム

社説 韓国に新大統領 成熟した関係築きたい

 朴槿恵(パク・クネ)氏が韓国初の女性大統領に就任した。きのうの式典には7万人も出席したという。経済成長をもたらした故朴正熙(パク・チョンヒ)大統領の長女でもあり、注目を集めているようだ。

 内政、外交とも多くの難題が待ち構えている。なかでも優先して取り組んでもらいたい課題の一つが日韓関係の改善だ。島根県の竹島をめぐって冷え込んだままである。

 領土問題は往々にして解決に時間を要する。だが両国とも政権が交代した。互いがここを好機ととらえ、長期的な視野から関係の再構築を探るべきではないか。

 大統領は、就任式に出席した麻生太郎副総理と早速、会談した。日本との対話を重視する姿勢と受け取りたい。

 気になるのは、この席で大統領が「未来志向の協力のためにも歴史認識が重要」との認識を示したことだ。いわゆる従軍慰安婦問題について、日本側にボールを投げたのだろう。

 日本と韓国の間に、植民地支配という不幸な歴史があったのは事実である。真摯(しんし)に過去を見詰め、絶えず検証を深めていく必要性は言うまでもない。

 とはいえ、今や両国は単なる東アジアの隣国にとどまらない。基本的な価値や利益を共有する重要な存在であり、経済や安全保障、文化など幅広い分野で不可欠なパートナーである。

 ここは感情的な対立よりも冷静な対話を通じ、連携関係を一層成熟させたい。何よりも互いに、未来志向に立ちたい。

 もろくも崩れそうな中国への信頼に比べれば、これまでも私たちは、ぶれの少ない関係を築いてきたのではなかったか。

 就任演説で朴氏は、雇用や福祉を拡充して「国民幸福時代」をもたらすと強調した。前政権時代に拡大した社会格差の是正に力を注ぐという。

 外交面では、核実験を繰り返す北朝鮮を非難し、核開発の放棄を強く求めた。その一方で中長期的には、対話や人道支援を通じて南北の信頼関係構築を目指すという。

 そのためにも米国や中国だけでなく、日本とも緊密な連携が不可欠になってこよう。

 そもそも日韓関係がここまで悪化したのは、李明博(イ・ミョンバク)前大統領の竹島上陸がきっかけだった。領土をめぐる問題は両国民の感情を刺激しやすいことも、互いに身に染みたはずだ。

 腹を割って話し合う機会を探る。今がそのタイミングと考えれば、「竹島の日」式典の政務官出席に韓国側が過敏に反応したのは残念でもあった。

 そうした強硬姿勢に呼応するかのように、韓国内の600万人もの自営業者らの組織が来月から、日本製品の不買運動を展開すると発表している。

 通商摩擦に発展しかねない。関係改善をいっそう難しくするだけとも思える。

 歴史・領土問題で朴氏は妥協しない構えと伝えられる。国民の愛国心を鼓舞することで政権の安定を図りたいのかもしれない。だが今こそ、日韓関係の未来を見詰めて判断してほしい。

 もちろん日本側がいたずらに刺激するべきではなかろう。歴史認識の修正などを表明する安倍晋三首相にも自重を願う。

 人気取りに走らず、慎重な政権運営が双方に求められる。まずは首脳会談を持ちたい。

(2013年2月26日朝刊掲載)

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