×

社説・コラム

社説 オスプレイの本土訓練 ただちに計画撤回せよ

 重大事故を繰り返してきた米軍の新型機が、ついに本土で低空飛行訓練をするという。断じて容認できない。

 在日米軍司令官はおととい、垂直離着陸輸送機MV22オスプレイが6~8日に米海兵隊岩国基地を拠点に訓練すると発表した。昨年秋に普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)に配備された12機のうちの3機という。

 米軍の発表後、防衛省は広島、岡山、島根など中四国と九州の各県に情報提供した。低空飛行を伴うと説明している。

 日本政府は最近まで、訓練ルートの存在すら公式に認めてこなかった。広島県などから訓練中止を20年来訴えられても、米軍機の運用には関知しない、という立場だった。にわかに開き直ったかのように米軍を代弁するとは、地元の思いを軽視しているとしか言いようがない。

 米軍は、以前から中国山地を横断するブラウンルート、広島、島根、山口にまたがるエリア567などの訓練空域を使っている。今回、ブラウンでの訓練を示唆している。

 広島県の湯崎英彦知事は、県民が納得できる説明がないとして遺憾の意を表明した。

 当然だろう。これまで、主に岩国基地所属の戦闘機が低空飛行を繰り返し、中国山地一帯の平穏な住民生活をかき乱してきたからである。

 小学校の授業がごう音で中断し、児童が不安を訴えるケースもあった。衝撃波で民家の窓ガラスが破損した例が報告されている。自治体や住民の抗議にもかかわらず、米軍機の目撃回数はむしろ増えている。

 オスプレイの本土訓練は、中国山地での低空飛行がさらに増えることを意味する。そのような事態を見越し、広島、島根両県で騒音測定器を新たに設ける自治体も増えている。

 日本政府は地元の危機感を真剣に受け止めているのか。米軍の代弁者になるのではなく、むしろ訓練撤回を迫るべきである。

 騒音や衝撃波だけではない。飛行自体の安全に対する懸念も拭えない。

 日米両政府は昨年、オスプレイの飛行に関する取り決めを交わした。低空飛行訓練を150メートルより上空で行うことなどを申し合わせた。可動式のプロペラを上に向けた飛行だと事故を招きやすいとして、飛行制限も約束した。ところが沖縄県の昨年の目視調査では、飛行件数の6割に合意違反があった。

 地上150メートルであっても、騒音や恐怖感は相当なものとなるだろう。しかも、その約束すら守られる保障はない。

 日米合意により厚木基地(神奈川県)の空母艦載機が50機以上、岩国に移転することになっている。オスプレイの本土訓練に歯止めをかけておかなければ、合意違反の低空飛行はなおさら増えるだろう。

 防衛省は、本土訓練が沖縄の負担を分散させるためだとする。沖縄の怒りをくみ取った面も確かにある。日本全体が重く受け止めなければなるまい。

 ただ、オスプレイがある限り沖縄の基地負担自体はなくならないのも事実である。普天間の機能をグアムに移して差し支えない、との見方は日米双方にある。負担をたらい回しにするだけでなく、いかに解消するかを考えるときである。

(2013年3月2日朝刊掲載)

年別アーカイブ