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社説・コラム

『潮流』 生類の行く末

■論説委員 石丸賢

 作家の石牟礼道子さんが受賞を辞退したというニュースで、遅まきながらその存在を教わった。

 「KYOTO地球環境の殿堂」。京都議定書誕生の地となったゆかりで京都府などが3年前に創設し、国際社会に影響を持つ内外の個人を選んでいる。

 いったい、どれほどの賞なのか。ちょっぴり意地悪な気分でのぞいた先月の表彰式では、かえって京都の底力を見せつけられた。

 思いもよらず、環太平洋連携協定(TPP)に対する疑念を印象付けられたからである。受賞記念の講演やシンポジウムで誰一人として「TPP」とは口にしないまま、それによって塗り替えられかねない地域の姿を描いてみせた。

 今回殿堂入りしたインドの環境哲学者で物理学者のヴァンダナ・シヴァさんは繰り返し、米国主導の遺伝子組み換え技術で作物の単一化が進んでいる現状を憂えた。コモンズ(共有財)という考え方を持ちかけ、「生物多様性こそが守るべき、この星最大のコモンズ」と説いた。

 げきを飛ばされ、駆られる思いがあったのだろう。シンポで席を並べた国連食糧農業機関(FAO)の前部長は「生物多様性を支えているのは多様な食や農。それは多様な文化の源でもある」と応じた。

 より手早く、より安価なやり方が正しい―。そんな工業界の「効率」一色で農や自然界まで染め上げるな、と2人は言いたかったのではないか。中国山地でも見かける小さな農業の方が、生き物のにぎわいを育むには効率的と再認識させられる議論だった。

 「殿堂という権威をまとわず、一人の詩人として生類(しょうるい)の行く末に向き合いたい」というのが石牟礼さんの辞退の弁だった。「人類の…」としない辺りが、らしさだろう。その思いは、シヴァさんたちにも通じている気がする。

(2013年3月2日朝刊掲載)

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