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社説・コラム

社説 中国全人代 周辺国の懸念払拭せよ

 本格始動する新指導部は、世界2位の経済大国をどうかじ取りするのか。中国の全国人民代表大会(全人代)がきのう開幕した。17日までの大会の期間中、既に共産党のトップとなっている習近平氏が新たな国家主席に就く。

 初日は、引退前の最後の舞台となる温家宝首相が政治活動報告をした。安定的な経済成長を目指す一方、社会問題化している格差是正や官僚の腐敗防止に取り組む方針を示した。

 習体制への宿題ともいえよう。ただし具体的な対策となると、見えていない。

 国民の目を海外に向けることで、強まる不満をそらそうとしているのだろうか。温首相は軍拡路線を続けるとも強調した。

 これでは日本だけではなく、南シナ海で領有権を争う東南アジアの国々が「脅威」ととらえても無理はあるまい。新指導部は周辺国の懸念を払拭(ふっしょく)するよう努めるべきである。

 全人代に出された2013年度予算案によると、国防費は11兆円余りに上り、3年連続で2桁増となった。この10年間で4倍に膨らむ急拡大ぶりだ。

 報道官は中国の軍拡について「地域のさらなる安定や世界平和にプラスになる」と語ったという。周辺国からすれば到底、受け入れられまい。

 軍の最近の動きを見ると、質も変容している。空母が昨年、初めて海軍に配備された。海洋への進出を強める狙いにほかならない。

 忘れてはならないのが、中国の国防費は公表分だけではないと指摘される点である。軍事転用を念頭に置いた宇宙開発などが含まれていないという。実質的にはさらに膨大となる。

 ここにきて周辺国の不安が強まっているのが中国の大気汚染である。北京などの都市部では、工場のばい煙や自動車の排ガスに含まれる微小粒子状物質(PM2・5)の濃度が極めて高い。この状態が続けば国民の健康被害は深刻になろう。

 日本でも中国から飛来したとみられるPM2・5の濃度が、環境省の基準値を超えるケースが増えている。この2日間で山口県や熊本県で基準を上回り、各県が外出自粛を呼び掛けた。

 温首相は大気だけではなく、水や土壌などの環境汚染対策を強めると語った。ぜひ本腰を入れて取り組んでほしい。

 ことしの全人代は指導部の顔ぶれが一新され、新体制が正式にスタートする場にもなる。習氏とチームを組むのが、首相に就く李克強副首相。大学時代に来日してホームステイの経験もある知日派といわれる。

 さらに外相には、元駐日大使の王毅氏が就任する見通しだ。尖閣諸島をめぐって対立する日本との関係を改善する意図があるとも期待したくなる。

 だが、楽観視はできないかもしれない。習氏が昨年11月、党の総書記になって以降、基本的には従来の路線を踏襲しているように思われる。

 とりわけ新指導部には、外交面でもっと大きな責任を果たすよう求めたい。北朝鮮が核開発に突き進む中、6カ国協議の議長国としての役割は重い。

 いたずらに軍拡を続けたのでは、周辺国との緊張は高まるばかりだろう。大国の責務としてアジアの安定に貢献してもらいたい。

(2013年3月6日朝刊掲載)

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