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社説・コラム

社説 北朝鮮制裁決議 包囲網をどう生かすか

 3回目の核実験という暴挙に出た北朝鮮に対し、最大限の警告にほかなるまい。

 国連の安全保障理事会が核実験強行を厳しく非難するとともに、制裁を大幅に強化する決議を全会一致で採択した。

 当然の措置である。しかも、従来は制裁に慎重だった友好国の中国が、草案段階から協力した意味は重い。北朝鮮に対する国際社会の包囲網は、かつてなく整ったといえよう。

 金正恩(キムジョンウン)第1書記は自ら招いた事態を真摯(しんし)に受け止め、非核化への道に立ち戻るべきだ。

 今回の制裁は「ヒト・モノ・カネ」の全てにわたって踏み込んだのが特徴である。

 核やミサイル開発に関係する可能性があれば、金融資産の凍結を義務付けている。禁輸物資を積んだ船舶の貨物検査も各国への「要請」から「義務」に格上げした。前例のない外交官の行動への監視も目を引く。

 早速、米国は北朝鮮の銀行幹部らの資産を凍結した。貿易総額の8割以上を占めるなど、経済面の関係の深い中国が制裁を本格的に実行に移せば、大きな打撃を与えるのは間違いない。

 北朝鮮側が反発したのは制裁への危機感の裏返しだろう。朝鮮戦争後の南北不可侵合意や、1992年の南北非核化共同宣言の白紙化を表明し、報復のための軍事行動まで示唆した。

 今回の安保理決議はあらためて核実験を禁じたが、4回目の実施をもくろむ動きも以前から伝えられている。「瀬戸際戦術」で追い詰められたのは自分たちであることを、今こそ北朝鮮指導部は思い知るときだ。

 米国が空爆による核開発阻止を検討したのが90年代前半の核危機である。それ以来の朝鮮半島情勢の緊迫化とする見方もある。とはいえ、今は冷静に状況を見極める段階ではないか。

 北朝鮮は弾道ミサイルによる米本土攻撃もちらつかせている。一方で実際の技術力はまだ低く、米国を交渉に引き出す恫喝(どうかつ)にすぎないとの分析もあることを忘れてはならない。

 国内事情も注視したい。第1書記就任から1年が近い金正恩氏は、いまだ指導体制が安定していない。手掛けた経済改革も失速気味で、軍部に募る不満を抑えようと無謀な核実験に走った側面も指摘される。

 日本を含む各国がさまざまな情報を収集し、北朝鮮に国際社会の厳しい空気を理解させる手だてを硬軟織り交ぜて考えていく必要があろう。

 先日、米国の元バスケットボール選手が訪朝し、第1書記と会った。その際、オバマ大統領との電話を望んだと報じられている。どの程度本気なのか定かではないが、同様の民間交流は今後とも閉ざすべきではない。

 先例に見れば国連制裁にも限界があり、同時に暴発を招くリスクもはらむ。今回の決議を通じて形成された包囲網を今後、どう生かすかが問われる。

 現状では関係国の対応に温度差があるのは事実だ。役割が重い中国は、習近平指導部がどこまで北朝鮮に厳しく対応するか見通せない。米国も実はイランの核問題を優先しているふしがある。拉致問題を抱える日本は中国や韓国との関係悪化が発言力低下に結び付いている。

 これ以上の暴走を食い止めるためにも、共同歩調を強めることを早急に確認しておきたい。

(2013年3月9日朝刊掲載)

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