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社説・コラム

天風録 「被災地に立つ」

 気が早いのではない。「目印にして皆、戻ってきて」と昨年、福島県南相馬市の住民が自宅跡地に立てた、こいのぼり。第1原発から20キロ余りの地は、津波が何もかも流し去る。人の消えた野っぱらで、願いを吸って泳いでいた▲東日本大震災から2年が過ぎた。被災者が祈り、希望を託すしるべは幾つあろう。岩手県陸前高田市の「奇跡の一本松」は一度立ったが、前の姿と違うとの声にやり直す。レプリカであっても、大切な心のよりどころ▲「現場現場の声を聞き、すぐさま行動へ移す。必ずや復興させる」。きのう安倍晋三首相は動画メッセージでそう誓いを立てた。なるほど言葉は頼もしいが、東北3県の実感とは開きがあるのでは▲政治家の家―。こいのぼりを仰いだ後、そんな看板のある掘っ立て小屋に出くわした。国会議員はここで原発被害を感じて。地元の声を映し、現代美術家が建てた「作品」だ。「さすがに誰か来たとは聞かないね」。住民は力なく笑う▲被災地に寄り添う。そう言うなら、政治家はもっと足を運んでいい。言葉に少しずつ信頼が寄せられるだろう。そして私たちは何をしよう。自問し、被災者の傍らに立ちたい。

(2013年3月12日朝刊掲載)

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