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社説・コラム

社説 米の核性能実験 「核なき世界」はどこへ

 北朝鮮の地下核実験は許せないのに、自国の核を温存する実験は当然だというのだろうか。

 米国が核兵器の性能を調べるための実験を昨年に2回行っていたと発表した。2010年から通算8回に上る。

 北朝鮮の核開発を断念させようと、国際社会は足並みをそろえている。米国の二重基準は、北朝鮮に正当化の言い訳を与えるようなものだ。国を問わず核実験は、核兵器の開発や維持が目的である。

 昨年末には臨界前核実験も実施している。オバマ大統領が掲げた「核兵器なき世界」からますます遠ざかっていると言わざるを得ない。被爆地からも抗議が相次いだ。当然であろう。

 今回の実験はニューメキシコ州の研究所にある「Zマシン」という装置で行われた。少量のプルトニウムに強力なエックス線を当てて核爆発の瞬間に近い高温、高圧状態をつくり、反応を調べるものだ。臨界前核実験を補完する最新の実験である。

 大爆発を伴う臨界には至らない。このため米エネルギー省傘下の核安全保障局(NNSA)は、地下核実験などとは別だと位置付けている。

 だがこのような実験ができるのも、米国が地下、地上、水中で千回以上の核爆発を重ね、膨大なデータを蓄積しているからにほかならない。

 これを前例として是認すれば、核開発をあくまで継続しようと考える国がほかにも出かねない。「持てる国」の横暴は決して看過されるべきではない。広島、長崎から粘り強く声を上げる理由でもある。

 NNSAは年に4回、核兵器の維持に関するさまざまな実験の実施回数を発表している。核開発を断念するよう北朝鮮に圧力をかける時期であろうがなかろうが、お構いなしである。一貫した方針に見える。

 核兵器廃絶を求める国際世論への配慮よりも、米国内世論へのアピールを優先しているのだろう。Zマシンの実験などが、包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准を実現させる切り札になるというのだ。

 条約批准の権限を持つ上院では、共和党が「米核戦力の優位性が崩れる」と批准に抵抗している。一方、オバマ政権は「爆発を伴わない実験であれば、いくらでも可能だ」とCTBTの抜け穴を前面に掲げて説得する。8千個近く保有する核弾頭の維持管理にも、膨大な予算を割いている。

 国際社会が発効を悲願とする条約が、米国では核実験を温存する根拠に使われる。大いなる矛盾ではないか。

 「核兵器なき世界」の足踏みが、オバマ氏の本気度だけの問題ではないことも示していよう。核兵器に固執する国にどれほど厳しい目が向けられているか。被爆地から米世論に働き掛けることを、さらに心掛けたい。

 ところが日本政府の姿勢は、広島、長崎からの訴えに水を差している。菅義偉官房長官はきのう、米国に抗議するつもりはないと明言した。

 米国は、核兵器の維持管理策が「同盟国を安心させるためだ」と繰り返し表明している。責められるべきは米国だけではないだろう。核兵器廃絶を唱えながら、米国の核の傘を求める被爆国のちぐはぐさをも、今回の実験は示してはいないか。

(2013年3月13日朝刊掲載)

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