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社説・コラム

広島平和文化センター リーパー理事長 今月辞任

動きだした非核保有国

日本の二面性 選択の時

 広島市の外郭団体、広島平和文化センターのスティーブン・リーパー理事長(65)が今月末で辞任し、米国に帰国する。2007年の就任から6年間、市の平和施策の一翼を担ったリーパー氏に、核兵器廃絶の展望や、被爆地広島の今後の課題など「ヒロシマへのメッセージ」を聞いた。(田中美千子)

 ―最も力を入れてきたことは何ですか。
 国内外のできるだけ多くの人に会い、市の施策を理解してもらうよう努めた。外国人初の理事長として自分がすべき仕事と思ったから。原爆を投下した米国出身だけに多くの人が耳を傾けてくれた。

 ―一緒に仕事をされた秋葉忠利前市長と松井一実市長の印象は。
 秋葉氏は「国が進めないなら都市がやる」とプレッシャーをかけながら核軍縮の機運を盛り上げた。松井氏は国と協調しながらも巧みに影響力を発揮しようとする。同じ道に向かい、別の手法でアプローチしている。

 ―平和市長会議の加盟都市を、就任時の1608から5551にまで拡大しました。
 大事なのは「核なき世界」のために本気で動いてもらうよう各都市に働き掛けること。そのため組織の機能強化を進めている。実現すれば核軍縮関連で最強の非政府組織(NGO)となる。

 ―平和市長会議は20年までの核兵器廃絶を掲げています。何を進めるべきですか。
 今、核を持たない国々で核兵器の非人道性に焦点を当て、非合法化を目指す動きが活発化している。これを支援する姿勢を打ち出してほしい。

 ノルウェー政府が今月開いた「核兵器の非人道性に関する国際会議」には127カ国もの政府代表が出席。核兵器使用がどんな恐ろしい影響をもたらすか、さまざまなデータが示され「もう非合法化するしかない」との発言が相次いだ。メキシコが年内にも次回会合を開くことも決まった。

 核軍縮議論はこれまで核抑止論を盾に核保有国が主導してきたが今回は違う。核を持たない国が立ち上がり、保有国はその勢いを恐れている。核兵器廃絶の好機だ。

 ―日本政府は核の非合法化を目指す動きに極めて消極的です。
 日本には二面性がある。核兵器廃絶を掲げる一方、米国の「核の傘」に頼り、米国が怒る政策は避けてきた。

 だが選択を迫られる時が来た。本気で廃絶を目指すのか、核抑止論を支持し続けるのか。市民もどちらを選ぶか考えないといけない。後者を選ぶのは得策でない。非核保有国との関係が良好に保てなくなるし、非合法化の動きにもマイナスだ。非合法化の動きは被爆者の訴えに重なる。被爆地が後押ししてほしい。

広島平和文化センター スティーブン・リーパー理事長
 1947年、米イリノイ州生まれ。日本での英語教師などを経て78年、ウエストジョージア大で修士号(臨床心理学)を取得。86年に広島市で翻訳・通訳会社を共同設立。帰国後の2002年、平和市長会議の現地スタッフに。03年に米国滞在の広島平和文化センター専門委員となり、07年、理事長に就任した。ことし9月、広島女学院大の特任教授に就く。

(2013年3月14日朝刊掲載)

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