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社説・コラム

社説 中国の新体制 内政改革も目を向けよ

 巨大国家の行方に不安は拭えない。中国の全国人民代表大会(全人代)が閉幕し、新体制が名実ともに始動した。

 党、国家、軍の全てを掌握した習近平国家主席が、就任演説で掲げたのは「中華民族の偉大な復興という夢」である。国内総生産(GDP)で米国を抜くことが念頭にあるようだ。引き続き成長重視の姿勢といえる。

 同時に人民解放軍には「断固として国家主権を守らねばならない」と求め、タカ派としての顔もはっきり見えてきた。

 胡錦濤氏が国家主席に就いた10年前と比べ、国際社会での中国の影響力は格段に強い。その分、責任も重いことを新指導部はまず肝に銘じてほしい。

 いま中国が曲がり角に差し掛かっているのは間違いない。

 鄧小平氏の改革開放路線を代々の指導部が受け継ぎ、驚異的な経済成長を遂げてきたが、ここにきて陰りは明らかだ。

 一方で貧富の格差拡大に加え、PM2・5問題をはじめとする環境汚染が深刻化している。特権階級の腐敗も進む。

 多くの人々が不満を抱え込む状況の中で、行動的リーダーと目される習氏はどんなかじ取りをするのか。現時点での方向性には首をひねりたくなる。

 政権基盤がまだ強固といえない習氏は軍の支えが頼りとされる。外洋での権益確保のため海軍力を拡大する「海洋強国」路線の強化は容易に予想される。国内の行き詰まりを打開する意図もあるかもしれない。

 しかし今こそ力を入れるべきは足元の改革ではないのか。

 特に腐敗防止は喫緊の課題だろう。全人代でも利権と汚職の巣窟とされた鉄道省を解体するなどの手は打たれたが、「生ぬるい」との声は絶えない。

 急激な開発がもたらした環境汚染も見過ごせない。住民の関心が高い上、周辺国への影響も小さくないからだ。今回は対策費の増加こそ決まったが、抜本的な手だては示されていない。

 全人代の国家予算採択で2割を超す反対・棄権が出たのは、こうした懸案を解決できない政府へのいらだちともいえる。

 社会主義と市場経済を両立させる今の仕組みを習氏が維持しようとするなら、大胆な内政改革は不可欠なはずだ。

 さらに国際的には力ではなく協調による外交に立ち返るべきだ。それこそが新指導部が掲げる「持続的な経済発展」にも結び付くのではなかろうか。

 難題山積の習指導部と、日本はどう向き合えばいいのか。

 李克強新首相は、初の記者会見で対米関係重視を示す一方、日本には触れなかった。尖閣の問題で関係が冷え込んだ状況は当面、変わりそうにない。

 だが知日派で元駐日大使の王毅氏を新外相に就けたのは、関係改善へのシグナルと読み取ることもできる。ここは途絶に近かった外交チャンネルを築き直すきっかけにしたい。

 その点、対中政策で安倍晋三首相が頼りとするオバマ米大統領の姿勢を見習いたい。先週、習氏に国家主席就任を祝う電話をかけつつ、中国発のサイバー攻撃をしっかりけん制した。

 何事も対話なしでは始まらない。安倍首相も習主席や李首相との会談を早めに実現させるべきだ。成果が得られないのではと二の足を踏み、ずるずると遅らせるのは好ましくない。

(2013年3月18日朝刊掲載)

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