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社説・コラム

「核の非人道性」共感呼ぶ オスロ国際会議 被団協・田中事務局長に聞く

 ノルウェー政府主催の「核兵器の非人道性に関する国際会議」が4、5の両日、首都オスロで開かれた。日本政府代表団の一員として参加した日本被団協の田中熙巳(てるみ)事務局長(80)に、127カ国・地域が参加した会議の様子や成果を聞いた。(藤村潤平)

日本、存在感示せず

 ―代表団はどんな活動をしましたか。
 私は被爆体験を交え、「核兵器が使われたらどんな非人道的な状態が起こるかは、広島と長崎の原爆被害を見ればいい」と英語で訴えた。誰もが知る原子雲の下は地獄であることを想像してもらいたかった。

 メンバーの日本赤十字社長崎原爆病院の朝長万左男院長は「核兵器爆発による医学上の影響」をテーマに講演した。

 ―核の非人道性を国家間で話し合う初めての会議でした。
 核兵器廃絶の取り組みは、核の非人道性や反道徳性をよりどころにしないと本物にならない。核兵器を人間が使ってはいけないという思いが世界中に浸透すれば、核抑止論はなくなる。非人道性に焦点を当てるのは大変良いことで、その原点は広島、長崎だとあらためて実感した。

 ―核拡散防止条約(NPT)下で核兵器の保有を認められている米国、ロシアなど5カ国は参加しませんでした。
 残念だが、そう簡単に実現しない。保有国が進めている核軍縮への支障になるというのが不参加の理由のようだが、会議の趣旨と相反すると思わない。世界中から核をなくすため、あらゆる方向から、あらゆる努力をした方がいい。

 ―日本は存在感を示せたのでしょうか。
 ほとんど存在感はなかった。スイスなど16カ国がまとめた核兵器の非合法化を求める声明への署名を拒否した日本の立場からすれば、顔を出すだけで精いっぱいなのだろう。

 カザフスタンの代表団は十数人。日本の4人と比べて圧倒的に目立っていた。被曝(ひばく)者が壇上で核実験場を閉鎖した経緯や大統領の考えを説明したり、写真パネル展を開いたりしていた。

 ―会議は核兵器廃絶に向けた一歩になったと思いますか。
 核兵器が使われたら、どんな国家も破滅的な事態に対処できない。その議長総括に参加者は共感したはずだ。4月にスイス・ジュネーブで始まるNPT再検討会議の第2回準備委員会での各国の発言に影響を与えるのではないか。こうした会議を重ねていけば、核兵器廃絶への機運が高まる。

 ―日本政府への注文は。
 ノルウェーの外務省高官から「日本政府の姿勢を変えてほしい」と閉幕後に言われた。ノルウェーは北大西洋条約機構(NATO)に加盟し、「核の傘」に守られる一方で、核軍縮に熱心に取り組んでいる。日本は米国の核の傘の下にいるから難しい、というのは理由にならない。

 人類史上最初の被爆国である日本が会議を主催したり、リーダーシップを取ったりしないのは情けない。先頭に立って核兵器廃絶の流れをつくるべきだ。

たなか・てるみ
 1932年、旧満州(中国東北部)生まれ。長崎県立長崎中1年の時、爆心地から3.2キロの自宅で被爆し、祖父ら肉親5人を失った。東北大工学部助教授などを歴任し、2000年6月から2度目の日本被団協事務局長を務める。埼玉県新座市在住。

核兵器の非合法化を求める共同声明への署名拒否問題
 昨年10月、国連総会第1委員会(軍縮)を舞台にスイスやノルウェーなど核兵器の非人道性を訴える16カ国が「核兵器を非合法化する努力の強化」を促す共同声明を作成。計35カ国が賛同して署名した。日本も署名を打診されたが拒否。「現実に核兵器が存在する間は、核抑止力を中心とする米国の拡大抑止は不可欠」(防衛計画大綱)との立場で、声明内容とは政策上相いれないと判断した。

(2013年3月18日朝刊掲載)

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